嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2018/09/12 [21:11:12] (Wed)
ああ、夏が来ると思い出すなあ……。
ん?いやね、むかし金魚を飼ってたことがあったんだ。
不思議な経緯でいなくなっちゃったんだけど、ね。
んー……。いまだに何だったのかわかってないんだよね。
うんとね、庄二郎が産まれる前のことだよ。
小さな手桶でね、金魚を飼ってたんだ。
家のお得意様がくれた金魚で、赤くて小さくて、ヒレが長くてひらひらしててね。
もらいものだからよくわからないけど、もしかしたら値のつく金魚だったのかも。見たことない尾びれの形してたし。
今まで金魚なんて飼ったことなかったから物珍しくてね〜。陽の当たる縁側に置いて、ヒマがあればじいっと眺めていたんだ。
そんなある日のことなんだけど、その日もいつもと同じように金魚を眺めてたんだ。
雲ひとつない快晴で、でもそのぶんとにかく暑くて、ちょっと現実逃避で眺めてたところもあったかな。
……冷静に考えてみると、このあっついのに日光の当たる場所でじっとしてるとか、考えなしにも程があるなあ。うん、暑くて頭が茹だってたんだよ、きっと。
額から流れた汗が、ぽちゃんって音を立てながら桶の中に落ちた。
金魚がびっくりしたみたいにぴゅっと動いて、「おっといけない」って手の甲で汗をぬぐった。
その時かな。急に、桶の水がゆらっとうねったような気がしたんだ。
ぼくの汗一滴でできるような波じゃなかったし、桶には指一本触れてなかった。
水が急にうねりはじめた、ーー次には。
桶の底が抜けてた。
……なんていうかな、底のない桶を川に浮かべた時みたいな。
桶の周りは当然、縁側の板張りだったんだよ?
でも、桶の中。
そのなかにだけ、川が流れていた。
それも、澄み渡った清水の川じゃない、にごった緑色の水だ。
何が起こったのかわからなくて、とりあえずまばたきしてみた。
底の見えない緑色のなかを泳ぐ金魚は、すごく綺麗だったよ。
場違いなくらい色鮮やかで。絵になってたっていうのかなあ。
よくわからないままに見とれちゃってたんだけど、そこに、あれがきた。
たぶん……魚、だと思う。
ぐばあっ
てね、赤ん坊の頭くらい呑み込めそうな大きな口だったよ。
それが金魚を水ごと飲み込んで、またたきする間に大きな、底の光る大きな目が横切った。
人間のものみたいに大きかったけど、あれは魚の目だったよ。
それから、大きな……見たことのない大きさの金色のウロコが見えて。
そのおっきなウロコが鎧みたいにぎっちり並んだ胴体……胴なのかな、あれ。
それがズァバボバブシャアアってすんごい水しぶきを上げながら、一瞬で濁った水の底に消えてった。
嗅いだことのない生臭い水を頭からかぶってボーゼンとしてたら、桶の底は元に戻ってた。
だけど、やっぱりーー金魚は消えてたよ。
納得いかない被害者たちのコメント
庄左ヱ門:
せっかく気に入ってた金魚だったのに……。名前付けようかななんて悩んでたところだったんだよ。
父上や母上に言ってみたんだけど、暑さのあまり夢でも見たかと思われてさ、医者に担ぎ込まれるしさ。
猫に食われたのをショックのあまり幻覚を見たらしい、なんて思われちゃって納得いかないったらないよ。
そりゃぼくだって他人がそんなこと言ってたらのぼせたのかなあって思うけど……。
でもね、夢じゃないんだ。
じつはね……桶の底に残ってたんだよ。
あのおっきな、手のひらくらいあるウロコがね。
きり丸:
知ってるぞそいつ!俺知ってる!
金魚売りのバイトしてた時、雇い主のおっちゃんと一緒に見たぜ。
おかげで金魚何匹も食われて大損、バイト代も減るしで大変だったんだよこっちゃあよ!
次に遭ったら絶対釣り上げて食ってやるっておっちゃんと誓い合ったあの夏よぉ……。
あれから夏に水の張った桶をみるとついつい確認するようになっちゃったんだぜー、もー。
庄左ヱ門、次にそいつ見たら絶対捕まえてくれよな!モリでグサッとやるのが一番早いからよ!
綾部:
あーそれぼくも見たことあるよ。
あの憎っくきバケモノ金魚妖怪でしょ?
大事に育ててたオタマジャクシ全部食われたんだ。ぼくはあの妖怪を絶対に許さない。
次に見つけたらこの踏み鋤のふみ子ちゃんで一撃してやると心に決めてるんだ。
……でも、一年生があれに手出しするのはちょっとやめておいた方がいいかもしれないよ。
うっかり桶のなかに落ちて、あのバケモノ金魚野郎に引きずり込まれたら、戻れないかもしれないからね。
ああ、夏が来ると思い出すなあ……。
ん?いやね、むかし金魚を飼ってたことがあったんだ。
不思議な経緯でいなくなっちゃったんだけど、ね。
んー……。いまだに何だったのかわかってないんだよね。
うんとね、庄二郎が産まれる前のことだよ。
小さな手桶でね、金魚を飼ってたんだ。
家のお得意様がくれた金魚で、赤くて小さくて、ヒレが長くてひらひらしててね。
もらいものだからよくわからないけど、もしかしたら値のつく金魚だったのかも。見たことない尾びれの形してたし。
今まで金魚なんて飼ったことなかったから物珍しくてね〜。陽の当たる縁側に置いて、ヒマがあればじいっと眺めていたんだ。
そんなある日のことなんだけど、その日もいつもと同じように金魚を眺めてたんだ。
雲ひとつない快晴で、でもそのぶんとにかく暑くて、ちょっと現実逃避で眺めてたところもあったかな。
……冷静に考えてみると、このあっついのに日光の当たる場所でじっとしてるとか、考えなしにも程があるなあ。うん、暑くて頭が茹だってたんだよ、きっと。
額から流れた汗が、ぽちゃんって音を立てながら桶の中に落ちた。
金魚がびっくりしたみたいにぴゅっと動いて、「おっといけない」って手の甲で汗をぬぐった。
その時かな。急に、桶の水がゆらっとうねったような気がしたんだ。
ぼくの汗一滴でできるような波じゃなかったし、桶には指一本触れてなかった。
水が急にうねりはじめた、ーー次には。
桶の底が抜けてた。
……なんていうかな、底のない桶を川に浮かべた時みたいな。
桶の周りは当然、縁側の板張りだったんだよ?
でも、桶の中。
そのなかにだけ、川が流れていた。
それも、澄み渡った清水の川じゃない、にごった緑色の水だ。
何が起こったのかわからなくて、とりあえずまばたきしてみた。
底の見えない緑色のなかを泳ぐ金魚は、すごく綺麗だったよ。
場違いなくらい色鮮やかで。絵になってたっていうのかなあ。
よくわからないままに見とれちゃってたんだけど、そこに、あれがきた。
たぶん……魚、だと思う。
ぐばあっ
てね、赤ん坊の頭くらい呑み込めそうな大きな口だったよ。
それが金魚を水ごと飲み込んで、またたきする間に大きな、底の光る大きな目が横切った。
人間のものみたいに大きかったけど、あれは魚の目だったよ。
それから、大きな……見たことのない大きさの金色のウロコが見えて。
そのおっきなウロコが鎧みたいにぎっちり並んだ胴体……胴なのかな、あれ。
それがズァバボバブシャアアってすんごい水しぶきを上げながら、一瞬で濁った水の底に消えてった。
嗅いだことのない生臭い水を頭からかぶってボーゼンとしてたら、桶の底は元に戻ってた。
だけど、やっぱりーー金魚は消えてたよ。
納得いかない被害者たちのコメント
庄左ヱ門:
せっかく気に入ってた金魚だったのに……。名前付けようかななんて悩んでたところだったんだよ。
父上や母上に言ってみたんだけど、暑さのあまり夢でも見たかと思われてさ、医者に担ぎ込まれるしさ。
猫に食われたのをショックのあまり幻覚を見たらしい、なんて思われちゃって納得いかないったらないよ。
そりゃぼくだって他人がそんなこと言ってたらのぼせたのかなあって思うけど……。
でもね、夢じゃないんだ。
じつはね……桶の底に残ってたんだよ。
あのおっきな、手のひらくらいあるウロコがね。
きり丸:
知ってるぞそいつ!俺知ってる!
金魚売りのバイトしてた時、雇い主のおっちゃんと一緒に見たぜ。
おかげで金魚何匹も食われて大損、バイト代も減るしで大変だったんだよこっちゃあよ!
次に遭ったら絶対釣り上げて食ってやるっておっちゃんと誓い合ったあの夏よぉ……。
あれから夏に水の張った桶をみるとついつい確認するようになっちゃったんだぜー、もー。
庄左ヱ門、次にそいつ見たら絶対捕まえてくれよな!モリでグサッとやるのが一番早いからよ!
綾部:
あーそれぼくも見たことあるよ。
あの憎っくきバケモノ金魚妖怪でしょ?
大事に育ててたオタマジャクシ全部食われたんだ。ぼくはあの妖怪を絶対に許さない。
次に見つけたらこの踏み鋤のふみ子ちゃんで一撃してやると心に決めてるんだ。
……でも、一年生があれに手出しするのはちょっとやめておいた方がいいかもしれないよ。
うっかり桶のなかに落ちて、あのバケモノ金魚野郎に引きずり込まれたら、戻れないかもしれないからね。
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