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嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2025/07/04 [08:03:15] (Fri)
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2018/08/14 [23:09:37] (Tue)

戸部新左ヱ門


拍手[2回]

 あれは、ええ、そうですね。
 酒の席の戯言と思って聞いてもらえるとありがたい。

 何だったか……課外授業で、ドクタケの企みを阻止した時があったでしょう。ドクたまが南蛮菓子持って泣きついてきた……そう、それです。
 ハハ、そうですな。ドクタケの企みの阻止など山ほどやっておりますからなあ。
 なぜか一年は組の例の三人が中心になることが多いようですが……土井先生も苦労されますな。ま、一献。
 ……ああ、いえ。その三人の話ではなく……。

 ええ。あの時、私と行動を共にしていたのは金吾です。皆本金吾。
 先生方も知っての通り、あれには剣の修行をつけている関係で、他の生徒らよりも付き合いがあるものですから。
 だから、私も常よりはほんの少し、気楽に構えていたところがありました。
 まったく、剣豪などと呼ばれるものが……。いやはや修行不足でまこと恥じ入るところ。
 どうか、この席かぎりの話と、あの月が沈むまでには忘れていただきたく。

 私は、この世で一等恐ろしいのは人間だと思っているがーー人間以外にも、胡乱なモノは山ほどいるものです。

 うむ……いや、あの時、私と金吾は枯野を通って合流したでしょう。
 あの枯野について、先生方はなんぞ聞いておられましたか。
 ああ、いえ、それは構わんのです。私も……おぅ、松千代先生、私の後ろに隠れんでください。反射的に斬りたくなりますゆえ。

 ゴホン。……私が地元の者から聞いた話はこうです。

 曰く、あの枯野は、人を喰うのだと。

 ふむ……詳しい話は何も。が、近隣の村の者はあの枯野に立ち入らんようにしているそうで。ええ、実際のところ何があったとか、そういう話を知っている者は1人もいなかったようです。
 ただ、彼らは皆、あの枯野は人を喰うのだと、それだけを何の根拠もなく信じ込んでおりました。
 ……正直、その話を聞き込んだ時点ではただの迷信か、と。
 ありがちでしょう。かつては理由が確かにあったものの、既に風化して形骸化していった慣習などと。
 具体的な事柄が何一つ出てこなかったので、そういう類の話かと思ったのです。

 私は金吾を連れて、その枯野を通っていました。
 話は多少気になったものの、なるべく早く皆と合流せねばならなかったのです。
 ……その枯野がまた、だだっ広い平野でしてな。
 季節ではないのでわかりませんが、すすき野だったかもしれません。肩に届くほどの丈の長い草がぼうぼうに生えて、しかしそれは全て茶色く枯れておりました。
 金吾は歩くのに難儀していたので、私が草を掻き分け掻き分け、その後ろから来させていたのです。
 その枯野を通れば半日は早く着く道のりだったのですが、いや、しかし、油断をしました。

 その枯野を前にした時、なぜだかヒヤリとしたのです。

 髭をあたる為の小刀を首筋に触れさせてしまった時のような、ぎくりとするような感覚のあれをーー気のせいだと片付けてはいけなかったのでしょう。
 否、私ひとりであればそれでも良かったのです。剣を鍛える者として、正体のわからぬ化け物を斬るのもまた、一興でありましょうや。

 だが、幼い者はそういうモノに惹かれやすい。
 たとい金吾が剣を学ぶともがらであったとしても、あれは少々早かったやもしれませぬ。

 背後にぴたりと着いてきていた金吾の気配が、不意に離れたのです。

「どうした」

 小便か。
 そう言って振り向いた先、己の足に絡まるものを引っ張りながら、金吾が困り顔をしておりました。引けば引くほど絡まるので難儀している様子で、申し訳がなさそうに言うのです。

「あ、先生すみません。この枯れ草が……」

 金吾には枯れ草に見えていたのでしょう。
 しかし私の目から見たそれは。

 枯れ木のような色をした、ひとのーー手でした。

 指が異様に長く、肉がこそげ落ち変色したそれでした。
 痛ましいほどやせ細った獣の手のようにも見え、植物の蔓のようにも見え……。正体はわかりませぬ。しかし『手』である、と私は思いました。

 そうしてそれが、見る間にわらわらと……金吾の小さな体に群がってゆくのです。
 さながら虫籠のようでした。

 金吾は、どうにもそれがただの枯れ草にしか見えていなかったようで……、まったく呑気な、鼻でも垂らしそうな顔で、「先生手を貸してください」とこう、見上げてきたのです。
 ……まア、あれは怖がりですからな、見えなくて幸いだったと言うべきか。

「動くな」
「えっ」

 ぽかんと開いた口にガサガサと手が群がろうとしたのへ、一刀で全て断ち斬りました。
 芸の類になりますが、服のみを斬るなどした事もあったもので。

 ……ははァ、先生。
 斬れぬやもなどと思っていては、紙切れひとつ斬れませぬよ。

 ばらばらと落ちるそれらを見て、金吾は目を輝かせて何事か言っていましたが、私はそれに返事を返す事もできませなんだ。
 何せやつら、斬った側から湧いて出るのです。
 堪らず金吾を担ぎ上げて走りました。

 あれほど縦横無尽に刀を振るったのは、いや、久方ぶりでした。伸びてくる手と共に枯れ草も伐採しておりましたので、後ろを振り返れば道が出来ていたはずです。

 そうして一直線に枯野を横切り、水田を渡り、普通のーー妖気などもないごく普通の、小さな野原にたどり着いて、ようやく足を止めました。
 そこで呼吸が少し乱れているのにようよう気付き、己を恥じたものです。……いえ、剣の高みへ行くには、あの程度で心乱しているようではとてもとても。

 枯野を振り返ると、赤茶けた草の骸の合間に、ゆらゆらと揺れるものが見えました。
 何十、何百と揺れるそれらは離れてみるとやはり、ただの枯れ草にしか見えずーーしかし。
一度「そう」と見てしまうと、明らかなる異形であることが見て取れました。

 ーーあれは、あれも、『鬼』なのでしょうな。





一緒に飲んでいた教師のコメント

土井:
 いや……それ……あれ……報告してくださいよ!?
 うっかり生徒がうっかりしたら不味いじゃないですか!?

 え?報告してある?えっ、なんです山田先生……。
 あーーあの平野のことなんですか!?あああ、なるほど、濁してあったので気付きませんでした……。
 でも、「長虫の絡みつく平野にて、命の危険有」だけじゃわかりませんよお……。

山田:
 ふむ、些か気になりますなあ。
 迷信、流言から始まったことが、信じる人々が増えたことにより本当のことになる……。忍者もよく使う手です。
 真実その枯野に何の曰くもなかったのであれば、民草の恐るる心が怪異を産み出した、などということもあるかもしれませんな。
 ……いや、ただの与太話ですよ、本気にしないで下さい。

 そもそも、生きている人びとの作り出したものだというなら、生霊のようなもんじゃありませんか。
  生者を斬り捨て御免したんならそれ相応の手応えってもんがあるでしょうよ、たとい生身じゃないとしてもねえ。

 ……おや、戸部先生、どうされました。




同道した生徒のコメント

金吾:
 戸部先生と?うーん……ん、あれかな?
 たぶんススキ野原を走った時のことですよね?
 先生すごかったんですよ!ぼくをかついで走りながら刀をふるって、そんで体幹が少しもぶれないんです!うぅ、ぼくも修行しなきゃ……はい?

 ああ、そういえば茶色い……ムカデかなあ、なんだか長い細い虫みたいのがいっぱい居たから、それじゃないですかね?
 手形?足に?あっ、ホントだ!あの時の虫に刺されたのかなぁ、言われてみれば手みたいですね。あはは、なんちゃってぇ。
 え、う〜ん、あはは……戸部先生、動くもの見るとつい抜刀するクセがあるから……あの虫を見て血が騒いじゃったんじゃないかなあ。

 それより、あの原っぱ昼寝してる人がいっぱいいたから、戸部先生が踏んだり斬ったりしないかってハラハラしちゃってさ〜もお〜。ああなった先生ってなかなか止まってくれないしさあ……。
 手を伸ばしてくる人もいたし悲鳴も聞こえてたし、何人か踏んじゃったのかも……あああ……大丈夫だったかなあ……あの時の人たちごめんなさい……。

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