「私が……私がもっと……」
「ハハ……はあああああ」
深い深い溜め息をつくその背中には諦めとやるせなさが漂っている。
いつもの快活さが嘘のように今にもサラサラと風に流されていきそうな先輩と、いつもの無駄な自信満々さが嘘のように地面にめり込みそうな先輩。その周りには、慰めの言葉が見つからずにおろおろするばかりの下級生。
「しろべえ先ぱい、どうしましょう」
「どうしようねえ、金吾。七松先輩は怒られてるし」
困りきった様子で、体育の下級生二人が首を傾げている。
「滝夜叉丸先輩……」
「元気出してください。次はぼくもがんばりますから!」
「ぼくも頑張って七松先輩を止めます!……しがみつきます!」
「がんばります!」
「お前たち……」
何と殊勝な後輩たちだろうか。この(略)である私の後輩として申し分ない健気さ。流石は私、後輩にも恵まれるとは、自分の才能が恐ろしい。
しかしこの滝夜叉丸たるもの、自分の才能など恐れていてはならない。何故なら私は(略)であり最高の先輩だからである。そして最高の先輩たるもの、後輩を犠牲になどするわけがない。
「大丈夫だ、お前たちは安全なところからこの滝夜叉丸を褒め讃えるだけでいい。お前たちが組み付いたところで、あの人の事だ、新しい遊びかなにかだと思ってお手玉を始める恐れがある」
きり丸に、子供をお手玉していたという話を聞いていたのだろう、金吾がその光景を想像でもしたのか既に泣きそうになりながら四郎兵衛にしがみつく。四郎兵衛もさーっと顔を青くして金吾を抱きしめる。
「な、だから、この滝夜叉丸に万事任せておけ」
怯える後輩二人を宥めるように、柔らかな笑みを浮かべて、頭を撫でてやる。
「で、でも先ぱい!ぼくたちにだって何かできることが……!」
「ぼく、せめて次屋先輩の事をもっとよく見ておきま……あれ、次屋先輩は?」
「えっ?あ、いない!?」
滝夜叉丸はザスゥ……と力なく膝をついた。
あの方向音痴が、一秒だってじっとしていられないのか……!?
「金吾、四郎兵衛、行くぞ!この平滝夜叉丸に付いてこい!」
がばっと立ち上がり、縄を引っ掴んで走り出す滝夜叉丸に、用具委員長に説教されている途中の小平太が声を張り上げる。
「滝ぃ、私も行くぞ!」
「いえ委員長のお手を煩わせるまでもありません三之助は我らに任せあなたはゆっくりしていて下さいでは行ってきます!」
それは普段の自慢話で培った滑舌の良さと早口を駆使した、見事なまでに口を挟む隙のない口上であったという。