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嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2025/07/04 [13:32:07] (Fri)
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2011/02/24 [23:09:13] (Thu)

体育委員会SS。
こんなパターンのSSを、もっと書いてみたい。

拍手[18回]


 息づく深い緑の中。
 小さな足が疲労に耐えきれず土を噛み、細い膝を紅葉のような小さな手が掴んだ。上体をかがめ、はぁ、ひい、と繰り返される呼吸は乱れまくって、肩が大きく上下している。
 こんなに何度も息を吸っているのに、肺はまだ足りないと痛みを訴えていて、金吾は膝をつかんでいた手をぎゅっと握った。
 大きく息を吸い込んで、顔を上げる。
 先輩は、どこだろうか。
 いつものことなのだが、いけいけどんどんと突っ走る雄たけびをあげて委員長は走り去り、それを必死に追いかける三之助が途中で迷子になり、それを追いかけていった四郎兵衛も姿が見えなくなり。
 ここに四年の滝夜叉丸がいれば、脱線する三之助を素早く捕らえ、縄をつけながら、四郎兵衛と金吾を振り返りつつ小平太の後を追うことができていたのだが。
 うぬぼれ屋の滝夜叉丸だが、実はうぬぼれるだけのすごいことをしていたのだなあと金吾はぼんやり思う。とはいえ滝夜叉丸がうぬぼれている部分と、金吾がすごいなぁと思っている部分には大きなすれ違いがあるのだが。
 とにかくも、本日は不運なことに、滝夜叉丸は実習で居ない。
その結果――――
 金吾は迷子になっているのだった。


 もう何でもいい、自慢話でも何でも聞くから滝夜叉丸先輩、早く帰ってきてください!七松先輩(と次屋先輩)は僕たちの手には負えません!
 金吾は強く、そう思ったという――尤も、滝夜叉丸がそれを聞けば、日頃の自尊心も忘れて「私の手にだって負えんわ!」と叫んだかもしれないが。
 委員長に付き合わされていつもヨレヨレになっている体育委員の、それは心の底からの叫びであっただろう。
 走りだそうとする前に、金吾はぐるりと周囲を見回して耳をすませる。先輩の声が聞こえないだろうか、という一縷の望みをかけての行動である。
 じつは、あの暴走委員長のおかげで、裏裏山付近で迷子になるのは初めてではない。滝夜叉丸とて常にフォローが間に合うわけではなく、四郎兵衛や金吾がはぐれてしまうことがあった。ちなみに次屋は活動の半分以上が迷子で、小平太は心配するだけ無駄なので、対象外だ。
 四郎兵衛も金吾も最初の頃こそ泣きべそをかいていたものだが、これだけ何度も同じパターンを繰り返していれば慣れが出てくるものだ。すぐに、迷子になって泣くことは少なくなった。最初の頃は背の高い草や藪、空を覆う木の葉に怯え、迷子になると心細くて堪らなかったものだが、慣れとは恐ろしい。
 自分の名を呼ぶ声の方に走っていけばいいのだ。そろそろ委員長だって、後輩が全員消え去っている事に気付くはずだ。いや、いい加減気づいて欲しい。気づけば速いのだ、あの先輩は。
 あっと言う間にこちらを見つけ、叫ぶ。
「遅いぞ!」と。
 あなたが速すぎるんです!と滝夜叉丸が毎回のように叫んでいるが、聞く耳持たずと言おうか、自覚がないといおうか。一番ぴったり当てはまるのは、やはり「暴君」だろう。
 ちなみに、どんなにヘロヘロに疲れ切っていても、委員長の召集には全力疾走しなければならない。もし歩いていこうものなら、「走れ!」と怒鳴られるうえ、なぜかマラソンコースが追加になったので、次からは皆全力で走ってくるようになった。
 金吾は耳をすませた。
 風で木の葉が揺れる音。
 汗の浮かんだ額に風が涼しい。
 何も聞こえなくて挫けそうになる心を励まして、なおも耳をすましていると、声が聞こえた気がした。
 はっとして、声のした方をじっと見つめる。
 耳に神経を集中させて、じっとしげみの向こう、木々の奥をうかがう。
「――、……――、……」
「……、……――」
 話し声だ。
 それも、大人の。
(誰だろう)
 先輩では、ない。
 金吾の警戒心がむくりと頭をもたげた。
 ここは、忍術学園の敷地内だ。時折旅人が通りかかることこそあるものの、基本的にあまり部外者は入ってこない。ましてやこんな山の中、迷い込んだとしか思えないが。
 ここで他のは組の面々がいれば、
「迷子かもしれないよ」
「はっ、そうか、迷子!」
「じゃあ困ってる人なんだね」
「困ってる人は見捨てておけないよ」
「道案内してあげようか?」
「さんせーい」
「いいことだと思いまーす」
「うはっ、道案内代金たんまりもらえるかなぁ」
「きりちゃんってば」
「じゃあレッツゴー!」
 とか言って何の躊躇もなく出ていくのだが。一人だとなんか恥ずかしい金吾は足踏みしていた。それに、迂闊に一人で出て行って大丈夫な相手なのか。
(う~、うう)
 もしこれが忍術学園上級生、あるいは三年、または例外中の例外として冷静沈着な学級委員長である庄左ェ門であったならば、状況は大きく変わっていただろう。
 文字どおり頭を抱えて悩んでいた金吾は、話し声が途絶えたのに気づくのが遅れた。
 頭に疑問符が浮かぶのと同時にはっと顔を上げると、目前に迫る黒い忍び装束。
「ガキか。その忍び装束……忍術学園の生徒だな」
 どう聞いても友好的でない声音。
 何か、いやなものを感じた。
 一瞬硬直した金吾だったが、自分よりも遥かに背の高い男の、覆面の隙間から見える目をしっかりと見据える。
(なんか、怪しい)
 普通に考えれば忍術学園に敵対する、あるいは友好的でない組織の忍者、つまりは怪しいところでなくはっきりと敵なのだが、明確に敵対しているドクタケのヘボすぎる忍者に慣れきっているは組はあんまり普通の敵に慣れていなかった。
 目の前の黒装束が厭な笑みを浮かべて手を伸ばしてくる。
「――――っ!」
 慌てて後退り声を上げようとした口が、背後から伸びた手にふさがれる。金吾の顔からざあっと血の気が引いた。とっさにもがこうと振り上げた手もつかまれ、抑えこまれる。
 普通の子供であれば、この時点で完璧に無力化されていたことだろう。
――だが、金吾は、忍たま最下級生のなかでも抜群の実践経験を誇る、は組の一員だ。
(――つま先っ)
 敵や大家や先生から逃げるのは1年は組の十八番である。
 後半は褒められたもんじゃないぞッ!!という土井先生の苦悩のツッコミが枠外から入れられた気がしたが、金吾はは組の特有スキル、忍法知らん振りを決め込んで、思いきり足を踏みおろした。たまに間違って足でなく地面を踏みつけてしまうことがあり、そういう場合は笑って誤魔化すのがは組流だ。
 小さな足に衝撃が伝わってくる、骨の感触。
 成功だ!――いざ逃げ出そうと体に力を入れた時、
ほぼ同時に頭の上で痛そうな音がした。

バキャッ

あれ?

 つま先は人体の中で鍛えようのない急所である。
 セオリー通りであればそこに打撃を与えて怯んだ隙に逃げるものだが――怯むどころか、自分を捕まえていた体が横ざまにぶっ飛んでいくらしいことを感じて、金吾は大きく目を見開いた。
 反射的に振り向くと、派手に地面に叩きつけられる黒装束、そしてそれを踏み台にしたらしい影。あまりに素早いために影としてしか認識できない濃緑が、視界から外れていく。
 目が追いつかない金吾がそれを必死に追いかけて振り向いた時には、もう一人の黒装束はすでに強烈な蹴りをくらって倒れ伏すところだった。
「無事かぁ、金吾ぉ!」
 しゃんと立ってにかりと笑った濃緑のその人物を、金吾は驚きの声でもって叫んだ。
「七松小平太先輩!」


「まったく、金吾は無事だったから良いものの先輩はもう少し背後を振り向いて後輩の様子を見ながら走ってくださらないと、聞けば三之助と四郎兵衛は迷子になっていたというじゃありませんか!いいですか、今後は少しは後ろを振り返って下級生たちの世話を(略)」
「ようし!滝も戻ってきたしもう一度裏裏山をマラソンするぞ!」
「はっ!?あの、七松先輩、私は実習帰りで……」
「行くぞ!いけいけどんどーん!」
「きっ、金吾!お前は四朗兵衛と一緒に一応保健室に……待て三之助何処へ行く!そっちじゃない、こっちだ!」

 怒涛の勢いで走り去っていく暴君と、三年生を引きずりながら必死にそれを追いかけていく滝夜叉丸をほとんど茫然と見送って、四郎兵衛はぽつりと呟いた。
「あとで、滝夜叉丸先輩にお礼言おうね、金吾……」
 タチの悪い侵入者に出くわした金吾の体調を慮って、かつ下級生を気遣って、暴君の地獄の委員会活動から逃がしてくれた滝夜叉丸の、疲れた顔を思い出す。
「はい。……ぼく、委員会やってる時だけ、滝夜叉丸先輩を尊敬しそうになります……」
「僕も……」


 その哀愁あふれる二つの背中に、暴君に呼び出された保健委員長はくっと目頭を押さえたとかなんとか。

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