嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2016/09/23 [20:42:21] (Fri)
ーー……徹夜のしすぎの幻覚かと思ってたんだがな。
今回の月末の決算はちと面倒なことが重なって、予算会議前でもねえってのに、会計委員全員が会計室に泊まりこむ事態になっててな。
流石に下級生を何日も泊まり込みさせるわけにもいかんし、俺と田村でほとんど片をつけたんだが。
……あー、四徹ぐらいだったか。
ようやく終わった日の朝、眠気に耐えながら2人で飯食ってたときだ。
俺が隈作るのはいつものことだが、田村があからさまに隈作るのはあんまりないからな。
おばちゃんが気ィきかせてくれて、ちと早めに飯にありつくことができた。ありがたい話だ。
で、田村と決算の最終確認をしてたんだが……。
田村が俺の膳を見て何度も目を擦るんだ。
もう半分以上食っちまってたが、何か虫でも入ってたかと、膳を見下ろした。
ーー……金魚がいた。
一寸くらいの小せえ赤い魚だ。
そいつが、悠々と味噌汁の中を泳いでいた。3匹もだ。
……ーーああ、生きてた。泳いでたんだよ。
煮られてもいなかったし焼かれてもいなかった。
流石に金魚の踊り食いはしたくねえ。そう思っておばちゃんを呼んだんだが。
「あら潮江くんどうしたの?味噌汁?金魚?なぁ~に言ってるの、徹夜のしすぎで目がおかしくなっちゃったんじゃないのかい?これ食べたらちゃんと寝るんだよ」
……ときたもんだ。
思わず田村と顔を見合わせたが、おばちゃんからダメ押しのように「お残しは許しまへんで!」と言われちゃあ仕方ない。
「忍者たるもの、味の多少、品の多少を選ばじ!」
「え、先輩でもそれは……あー」
む、仕方なかろうが、おばちゃんの目には何も見えんというなら、四徹後の我々の目こそ疑うべきだろう。普通に考えて。
それに、味噌汁は一気飲みしたが、実際に金魚のようなものが喉を通る感触はしなかったんだ。
普通のおいしい味噌汁だった。
「……先輩、大丈夫ですか……?」
金魚を丸呑みしたくらいで心配されるほど俺は軟弱ではない、と普段なら一喝するところだが、心底疲れきってる後輩を叱り飛ばすほど俺も鬼じゃあない。
「……、魚を食った感触はなかった」
「えっ」
「……田村、今日は早く休め。俺もそうする」
「……そうします……」
2人揃って幻覚をみるなんて重傷だな、と思いながら膳を片付けようと立ち上がった時、不意にげっぷが出た。
喉の奥からせり上がってきた空気の塊をそのまま吐き出したんだが、俺の口から飛び出てきたのは空気じゃなかった。
金魚だ。
田村の今にも寝そうだった目がまんまるになった。俺も同じツラしてたかもしれねえな。
金魚は、まるで水の中にいるようにすいすいっと虚空を泳いで、あっという間に机の下に消えた。
すぐに机の下を覗き込んだが、金魚はもうどこにもいなかった。
いや、隠れてたのかもしれねえが、一寸足らずの小さいやつだ。おまけに、あー、泳ぐのが早え。1回見失ったら探すのは至難だろう。
反対側から同じように机の下を覗きこんでた田村と目を見合わせて、
「……。少しでもいいから、仮眠とるか」
「そうですね、そうしましょう」
ちゃぽん。
腹の中で水音がしたが、リアルな幻覚だな、と俺は聞かなかったことにした。
同室のコメント
立花仙蔵:
そうさなァ、それを見たのが貴様らだけなら幻覚で片付けてもよかったのだろうがな。
残念ながら、私もその日奇妙なものを見てな?
ああそうだ、あの時仮眠をとっていて二重の意味で良かったかもしれんぞ。あの日はは組と合同授業の予定が入っていただろう?仮眠もとらずにあの四十過ぎの疲れきった中年親父のような顔を晒していたら、我らが保健委員長どのに連行されていたことは間違いないだろうからなあ?
ああ、二重の意味というのはな、くく、まぁ聞け。
おまえが四徹明けというとても見るに耐えないような酷い顔で眠りこけているのを私が発見した時だ。
お前は私の気配にも気づかず寝こけていたが、ちと油断が過ぎるのではないか文次郎。
自業自得で疲労困憊しているのであれば、この隙に少々悪戯でも仕込むところだぞ。ゆめゆめ油断するなよ。
ふむ、それでな。
……流石に我が目を疑ったぞ。
油断しきって半開きになったお前の口から、すいすいと小さな赤いものが2つ、出てきたのだ。
この阿呆は一体どこで何を食ってきたのかと思ったな。
ああ、金魚であったよ。
それらはあっという間に戸の向こうに泳ぎ去っていった。
幻覚と思えぬほど生き生きとしていたし、いやはやしかし魚は陸では泳げぬ筈であるし。
ふん?まぁ私以外に2人もそれを見た者がいるというのなら、ただの幻ではないのだろうよ。
ーー……ところで文次郎、金魚は3匹だったか?
食堂で1匹、長屋で2匹、ちゃんと全て出ていったようで何よりだが、文次郎。
本当に金魚は3匹だったのだろうな?
いやなに、四徹明けとは言え、いかにも怪しげな生き物かもよく分からんモノを丸呑みにする莫迦の目は果たして正常だったのかと思ってなぁ……?
ーー……徹夜のしすぎの幻覚かと思ってたんだがな。
今回の月末の決算はちと面倒なことが重なって、予算会議前でもねえってのに、会計委員全員が会計室に泊まりこむ事態になっててな。
流石に下級生を何日も泊まり込みさせるわけにもいかんし、俺と田村でほとんど片をつけたんだが。
……あー、四徹ぐらいだったか。
ようやく終わった日の朝、眠気に耐えながら2人で飯食ってたときだ。
俺が隈作るのはいつものことだが、田村があからさまに隈作るのはあんまりないからな。
おばちゃんが気ィきかせてくれて、ちと早めに飯にありつくことができた。ありがたい話だ。
で、田村と決算の最終確認をしてたんだが……。
田村が俺の膳を見て何度も目を擦るんだ。
もう半分以上食っちまってたが、何か虫でも入ってたかと、膳を見下ろした。
ーー……金魚がいた。
一寸くらいの小せえ赤い魚だ。
そいつが、悠々と味噌汁の中を泳いでいた。3匹もだ。
……ーーああ、生きてた。泳いでたんだよ。
煮られてもいなかったし焼かれてもいなかった。
流石に金魚の踊り食いはしたくねえ。そう思っておばちゃんを呼んだんだが。
「あら潮江くんどうしたの?味噌汁?金魚?なぁ~に言ってるの、徹夜のしすぎで目がおかしくなっちゃったんじゃないのかい?これ食べたらちゃんと寝るんだよ」
……ときたもんだ。
思わず田村と顔を見合わせたが、おばちゃんからダメ押しのように「お残しは許しまへんで!」と言われちゃあ仕方ない。
「忍者たるもの、味の多少、品の多少を選ばじ!」
「え、先輩でもそれは……あー」
む、仕方なかろうが、おばちゃんの目には何も見えんというなら、四徹後の我々の目こそ疑うべきだろう。普通に考えて。
それに、味噌汁は一気飲みしたが、実際に金魚のようなものが喉を通る感触はしなかったんだ。
普通のおいしい味噌汁だった。
「……先輩、大丈夫ですか……?」
金魚を丸呑みしたくらいで心配されるほど俺は軟弱ではない、と普段なら一喝するところだが、心底疲れきってる後輩を叱り飛ばすほど俺も鬼じゃあない。
「……、魚を食った感触はなかった」
「えっ」
「……田村、今日は早く休め。俺もそうする」
「……そうします……」
2人揃って幻覚をみるなんて重傷だな、と思いながら膳を片付けようと立ち上がった時、不意にげっぷが出た。
喉の奥からせり上がってきた空気の塊をそのまま吐き出したんだが、俺の口から飛び出てきたのは空気じゃなかった。
金魚だ。
田村の今にも寝そうだった目がまんまるになった。俺も同じツラしてたかもしれねえな。
金魚は、まるで水の中にいるようにすいすいっと虚空を泳いで、あっという間に机の下に消えた。
すぐに机の下を覗き込んだが、金魚はもうどこにもいなかった。
いや、隠れてたのかもしれねえが、一寸足らずの小さいやつだ。おまけに、あー、泳ぐのが早え。1回見失ったら探すのは至難だろう。
反対側から同じように机の下を覗きこんでた田村と目を見合わせて、
「……。少しでもいいから、仮眠とるか」
「そうですね、そうしましょう」
ちゃぽん。
腹の中で水音がしたが、リアルな幻覚だな、と俺は聞かなかったことにした。
同室のコメント
立花仙蔵:
そうさなァ、それを見たのが貴様らだけなら幻覚で片付けてもよかったのだろうがな。
残念ながら、私もその日奇妙なものを見てな?
ああそうだ、あの時仮眠をとっていて二重の意味で良かったかもしれんぞ。あの日はは組と合同授業の予定が入っていただろう?仮眠もとらずにあの四十過ぎの疲れきった中年親父のような顔を晒していたら、我らが保健委員長どのに連行されていたことは間違いないだろうからなあ?
ああ、二重の意味というのはな、くく、まぁ聞け。
おまえが四徹明けというとても見るに耐えないような酷い顔で眠りこけているのを私が発見した時だ。
お前は私の気配にも気づかず寝こけていたが、ちと油断が過ぎるのではないか文次郎。
自業自得で疲労困憊しているのであれば、この隙に少々悪戯でも仕込むところだぞ。ゆめゆめ油断するなよ。
ふむ、それでな。
……流石に我が目を疑ったぞ。
油断しきって半開きになったお前の口から、すいすいと小さな赤いものが2つ、出てきたのだ。
この阿呆は一体どこで何を食ってきたのかと思ったな。
ああ、金魚であったよ。
それらはあっという間に戸の向こうに泳ぎ去っていった。
幻覚と思えぬほど生き生きとしていたし、いやはやしかし魚は陸では泳げぬ筈であるし。
ふん?まぁ私以外に2人もそれを見た者がいるというのなら、ただの幻ではないのだろうよ。
ーー……ところで文次郎、金魚は3匹だったか?
食堂で1匹、長屋で2匹、ちゃんと全て出ていったようで何よりだが、文次郎。
本当に金魚は3匹だったのだろうな?
いやなに、四徹明けとは言え、いかにも怪しげな生き物かもよく分からんモノを丸呑みにする莫迦の目は果たして正常だったのかと思ってなぁ……?
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