俺がその変な声に気がついたのぁ、最近だ。
学園に入ってから、なんでか俺のトコに迷子だーって駆け込んでくるヤツは多かった。学園のお騒がせ野郎の一角、二大方向音痴と同級だったからかもしんねえけど……おかげで迷子係なんてえあだ名がついた。正直ド畜生と思った。
俺がその声に気付くきっかけは、潮江先輩に左門が消えたって言われた時だ。
「こっちでも捜しちゃあいるんだが、左門が見つからん」
「左門!」
「裏々山!」
「裏々山っすね、わかりました!すぐ行きますんで!」
「ん?富松お前、左門がどこに居るのか知っとるのか?」
「へっ?だって声が今」
「声?」
潮江先輩の後ろから聞こえた声は随分とかん高え声だった。小さい子の声みてえな?
俺はてっきり潮江先輩の後ろに一年生でもくっついて来てるんだろと思ってた。
だけど、そこは用具倉庫近くで、近くには通りかかる下級生なんかも一人も居ねえ。
その場にゃあ、潮江先輩と俺だけだったんだ。
また別ん時は、孫兵が泣きながら駆け込んできた。
「作兵衛ええええ!じゅんこが、じゅんこがあああ!」
「じゅんこ!」
「食堂!」
この時もかん高い声が聞こえた、けど孫兵は委員会の時には一年をじょろじょろ連れてるし、そいつらかと思ってた。
「食堂ォ!?おい危ねえぞ、前鍋敷きになって死んだ蛇居なかったか?てえか、」
「あああああああじゅんこォォォ!!!」
分かってんなら早く行けよと言う前に孫兵は走り去っていった。
え、俺手伝わねえでいいのかよ。てえか何しに来たんでえ、アイツは?
あっけにとられて後ろ姿を見送ってから、ふと気付いた。
走ってく孫兵の後ろには、一年の姿なんてなかったんだ。
俺のところに人が駆け込んでくるたびにその声が聞こえるもんだから――てえか、なんで迷子が出ると、あの方向音痴ども以外でも俺の所に持ってくんだ?
や、その声のおかげで大体の迷子は、まあ解決したけどよ。
それでまあ……なにかいるんじゃねえか、て思った出来事が、あったんだ。
ちょっと前だったか、田村先輩と平先輩が喧嘩しながら駆け込んで来た。
丁度そん時は委員会してたんで、食満先輩が前に立って下さって、断れそうだったんだけどよ……。
「しかしですね食満先輩。富松に手伝って貰わないと――」
「大変申し訳ないのですが、あの方向音痴共を見つける事にかけては――」
「左門!」
「滝壺!」
「三之助!」
「枯れ井戸!」
「マリー!」「三四郎!」「きみこ!」
「学園長の座布団!」
「でえええええ!?孫兵また逃がしたのかよ!?学園長が危ねえてえか左門滝壺ってどういうことでえおい落ちたのか!落ちたのかよ!?あと三之助の枯れ井戸ってぇ左門と逆方向じゃねえかあの馬鹿共おおお!!」
この時はちっと混乱しちまっててよく覚えてねえんだけど、なんか小っこい細っこい肩みてえなんをがっっっしり掴んだような気がする。
それでがくがく揺さぶったような……よく覚えてねえや。
「あー、作?」
「富松?一体どうしたというのだ?学園長がなんだと?」
「へっ?」
はっと気付いて、俺は何してんだ?と思った。
誰か居たような気がしたけど、目の前には誰も居ねえ。
誰かの肩を掴んだような気がしたけど、上がってた手は何も掴んでねえ。
「へ、え、あれっ??」
や、俺も自分が何してたか全然わかんねえんで、ずっと???って頭の上に浮かべて固まってた。
先輩たちを振り返っても、先輩たちも俺と同じ顔してる。
何が何だか、サッパリわかんねえ。
ワケがわかんねえまま先輩たちは走っていったんだけど、後で聞いてみたらあの方向音痴馬鹿二人はその、声の言った場所に居たんだと。左門は滝壺に向かってバッカヤロウとか叫んでたらしいし、三之助は枯れ井戸の中で体育座りしてたらしい。通常運転すぎて溜め息も出ねえよあの阿呆共。
食満先輩と一緒に半信半疑で学園長の庵に行ったら、座布団の上に陣取ったマリーと三四郎ときみこ、あーこいつらは孫兵のペットな。
マリーが毒蜘蛛、三四郎が大百足、きみこが青大将。……孫兵のペットって、ちょいと物騒なんだよ。いやでも孫兵はものすげえ愛情をかけて育ててるんだ。可愛がってんだよ、ちっとは手伝ってやろうと思うだろ。
で、そのマリーと三四郎ときみこが、座布団の上で三竦みやってた。
こいつぁやべえと思って、慌てて生物委員会を呼びに行った。
ま、まあ孫兵のペットのことは置いとけよ。
で、この俺の掴もうとした誰か、が声の主だと睨んでるってえわけだ。
そのままだったら、まあ良かったんだ。方向音痴共はすんげえ場所に居たりするから、いくら俺が勘で後を追っても、追いつけねえことがある。正直、声が教えてくれるのはすげえ助かった。
てえか迷子になったら動くなってえ言ってんのに、滅茶苦茶動きやがるからより迷子になるんだよ!ちっとはじっとしてやがれってんでい!
脱線しちまったけど、その声な。
声が、最近ちいと様子が違えんだよな。
今までは、あの声はこう、俺の所に駆け込んで来た人の後ろから聞こえてたんだ。
だからこそ、向こうに下級生でも居んだろと思って気付くのが遅かったんだけどよ。
それが、その声がな……。
俺の後ろから聞こえるようになってきたんだよ……。
助かってる、すっげえ助かってるんだけど……。
……たまに、後ろ振り向くのが怖え。