水無月~仏滅
ドクタケ城戦場にて
「組頭」
「何」
「……いえ、えー、」
「何だい、煮え切らない奴だ」
「組頭」
「何だい山本」
「その足、やめてもらえませんか」
「なんで」
「士気が落ちます」
「忍びの癖に贅沢な事言うねえお前たちは」
文月~大安
「逃がしたか」
「あのーーー組頭」
「何だ」
「座ると即座に足をそろえるの、やめてもらえませんか」
「なんで」
「あの、なんか疲れるっていうか……やる気が……」
「ふぅん?気合いの問題じゃないの」
葉月~先勝
タソガレドキ城天守にて
「ほぉ……これはまた。お前たち、気を抜くんじゃないよ」
「お言葉ですが組頭」
「どうした尊。珍しく真面目な顔だね」
「…!……!!」
「組頭、尊をからかうのは止めて下さい」
「これくらいで熱くなるおつむが悪いのさ」
「……尊、諦めろ。組頭はこういう方だ」
「酷いんじゃないの山本。で、尊は何?」
「……一番気が抜けるのは組頭の足揃えだと思いますぅっ!」
長月~友引
「組頭……女装してるように見えます……」
「なんで」
「足なんか揃えて座るからですよ」
「へー」
「聞く気ないでしょう貴方」
「さてね。お、来た来た。山本、頼んだ」
「折角の休暇に、組頭の分の焼き肉まで確保する義理はありません」
「ケチだねぇ山本は。仕方ないなぁ、陣左!腹身!」
「は、かしこまりました。必ずや」
「……陣左は真面目だねえ」
「貴方の格好が問題なんじゃないですか」
「なんで」
「……………言いたかないですがね、貴方の女装は色気があるんですよ」
「女装してるつもりはないんだけどねぇ」
「高坂さん?耳赤くなってますよ?」
「うるさい尊!肉をよこせ肉を!」
神無月~仏滅
タソガレドキ城下、ある宿屋にて
その薄暗い部屋では、3人の男が顔を寄せ合い、1枚の紙を覗き込んでいた。
長らく沈黙ばかりが支配していたその部屋で、最初に口を開いたのは着流しの男。
胸や足、腕、顔から首までのほとんどを真白い布が覆い、一種異様な雰囲気を作り出している。
せめて布団の中に居れば、重病人という名目のもと奇異の目で見られることはないであろう、そんな風体だ。
「…………ねえ、あの子莫迦の子なの」
そんな男の口から紡がれたのは、なんとも呆れた声。
「……否定はしかねます」
答える声も何とも言えない呆れを含んでいる。
頭が痛い、とでもいうように眉間を揉む動作が妙に板についている。苦労性なのだろう男は、油断のならない目つきをした壮年の偉丈夫だ。背こそ飛び抜けて高いと言うわけではないものの、がっしりとした男らしい体躯をしている。
「題名からして組頭観察日記ですからね。…………最初に見つけた時はまさかこれが密書だとは思いませんでしたが」
一歩下がったところで居住まいを正して座っていた男も、複雑な顔で答えた。三人の中では恐らく一番若いであろう、涼やかな目元の整った顔の男だ。
もし他者がこの場を見れば、共通点の何もないこの3人を訝しんだことだろう。年齢も、顔立ちも、雰囲気も、何一つとして関連するものを見出すことが出来ない。
悟られては仕事にならない――彼らは、そう言って嗤う。
それこそが。
タソガレドキ忍軍――戦国屈指の、忍集団。
そしてその頂点に立つ男、忍組頭――雑渡昆奈門。
仏の小頭、山本陣内。
そして若手では抜きん出た実力を持つ、高坂陣内左衛門。
そんな、タソガレドキ忍組の首級組が雁首付き合わせて何をしているのかと言えば。
「ホントにあの子密偵なの?お粗末すぎない?密書が」
「我々の組織に潜り込んだ手口は見事なものでしたよ。……密書以外は」
「接触を持っているのを確認しましたから、間違いはないかと。……「この報告書はなんだ!巫山戯てるのか!」と怒られていましたが」
「……まあ、本当に内容まで私の観察日記じゃねえ。ていうか私、そんなに普段から足揃えてる?」
「「揃えてます」」
「あ、そう」