あっ、そうそう、聞いてよ!
この間面白い事があってさあ。
学級委員長委員会の茶室で寝てた時かな。
……えー、だって誰も居なくて暇だったんだもん。
鉢屋と彦ちゃんはおつかい、庄ちゃんは補習の付き合いでさ。誰も居なかったわけ。
だからと言って俺一人で委員会活動するとかさ、寂しいじゃない。そもそも普段の活動って掃除とかお茶会とかだし。
まあそんなワケで、一人寂しく昼寝なんぞしてたんですよ。
遠くでハチが毒虫探してる叫びとか、会計委員長の雄叫びとか、保健委員会の悲鳴とか色々賑やかだったけどね。
ウトウトしてたら、ずうっと遠くで宴会やってるような声が聞こえたんだ。随分と楽しそうでさ、祭囃子みたいな笛の音まで聞こえた。
どこでやってんだろと思って起き上がって外に出たんだけど、どうも音は室内からしか聞こえないみたいだった。
耳を頼りに天井裏やら床下やら全部探ったら、床の間の掛け軸の方から聞こえてくるって分かった。
声を聞く限りだと、もう宴もたけなわでねー、どんちゃん騒ぎだよ。いいなぁ、やってんのが生徒だったら乱入してやろっととか思って、そりゃもう舐めるように調べたよ。
でもねー、鉢屋と俺がさ、毎日使ってる部屋ですよ。
仕掛けなんかあったらとっくの昔に気付いてるっつーの。
うん、案の定何もなくてさ。
首傾げてたところに、庄ちゃんが来た。
「遅れまし……」
「しっ」
いやー、庄ちゃんってばすごいよね。流石あのは組の学級委員長って感じ?
俺が咄嗟にしたジェスチャー見てすぐ黙って、室内を見回して、身振りで「誰か呼んできましょうか?」ってさ。は組ってホント場慣れしてるよねぇ。
別に曲者とかでもないし、普通に手招きしたけどね。
庄ちゃんも小さなどんちゃん騒ぎに気付いたみたいで、耳に手を当ててキョロキョロしてたよ。
なんだよぅ、いいだろ鉢屋は彦ちゃんとおでかけしてたんだから。その間庄ちゃんと一緒に俺が何をしようと、俺の自由ですうー。だって鉢屋が居ない時は俺が委員長代理だもーん。
うん、そんでね、二人してきょろきょろして首を傾げてたんだけど、庄ちゃんがさあ、「これじゃないですか?」って、あ、勿論ジェスチャーでね。
指さすんだよ、床の間に飾ってある、茶器の箱をさ。
ええ~……いや、俺もそこら辺から声するなー、とは思ってたけどさー……。
えー?だってさー、箱ん中から人の声とかするワケないじゃん。もし聞こえてきたら、それは普通その人の頭がおかしいか耳がおかしいか、それか幽霊だよ。
いつも使ってる茶室に幽霊とか、情報筒抜けじゃんやだなあって思って認めたくなかったんだけど……んん?だってさ、幽霊が告げ口しないかなんてわかんないじゃん。
それにさぁ、もし性質の悪い幽霊だったら庄ちゃん彦ちゃんが心配だし。
え、なに、鉢屋。い組は変な天然が多い?何言ってんの、変と言われる事にかけてはすこぶるつきのお前には言われたくないよ。この変顔マニアめ。
それでね、庄ちゃんと二人でその箱凝視してたら、会話までよく聞こえてさ。ちょうど一発芸やったらしくて、やんややんやの大喝采。
「おお、見事な芸であった」
「まったくまったく」
「お、酒が切れてしもうたの」
「では拙者が」
どっこらせ、て声と一緒に、箱の蓋が独りでに開いた。
俺も庄ちゃんもバッチリ見ちゃったよ。何だコレって顔近付けてじっくり眺めてる最中だったんだ。
いやあ、それがさあ、箱から顔出したのはね、
二寸くらいの、小さな小さなお侍様だったんだよ!
ほんっと小さかったなー。
目が合った瞬間、「ぎゃっ」て叫んで引っ込んじゃったけど。
それと同時にどんちゃん騒ぎもぴたっと消えて、思わず庄ちゃんと顔見合わせちゃったよね。
庄ちゃんってば、珍しく目ん玉落っこちそうなほど吃驚してたなあ。
その後、庄ちゃんの提案でお酒を一本供えといたけど。
今日見たら、空になってたんだよねえ。
……やっぱり、飲んだのかな?
学級委員長委員会のコメント
鉢屋:
諸悪の根源はお前かっ!
いいか、私は昨日、七松・中在家・立花・潮江先輩から「学級の茶室でどんちゃん騒ぎしてんじゃねえぞコラ(意訳)」って凄まれたんだ!お前が実習行ってる間にな!
あの茶碗は曰くつきなんだ。酒を与えるとどんちゃん騒ぎするってだけの曰くだが、与えすぎると調子に乗って何かやらかしたりするらしい。
まったく、学園長のコレクションは妙な物が多くて困る。
コレクションを集めるのに上級生数人がかりの忍務だったこともあるくらいだ、そんじょそこらのシロモノではないんだろうがな。
今福:
え……あ、確かにその、昨日委員会の茶室に入った時は、ものすごくお酒臭かったです。
鉢屋先輩が「酒くっさっ!!」て叫んですごい勢いで障子を全部外していたので、もう臭いは残ってないと思いますけど……。
あの箱ですか?知ってますよ。学園長先生が以前、あの茶碗でお茶を飲まれてましたから。
「どう見ても茶じゃが、どう味わっても酒じゃのう……」とかおかしなことを呟いておられました。
ええ、傍目に見ても高価そうな逸品でしたよ。お侍さんが月見酒をしている絵の描かれた、綺麗な器でした。
それを見て、学園長先生のコレクションはすごい物ばっかりなんだろうなあって思いました。