嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2010/12/27 [23:06:49] (Mon)
「ギンギーン!」
「先輩、一年坊主どもの鼻から魂が抜けかけてます!」
「捕まえろ左門!」
「ぼくはねていないぼくはねていないぼくはねて」
「寝とらんで気合い入れんか左門ン!」
アイドル学年と呼ばれることを誉とし同学年の「ほ~っほっほ」な男とどちらが成績優秀なのかで日々争っている彼にしては、随分とボロボロな姿である。
今日も今日とて、 田村三木エ門は上級生と下級生のフォローに追われている。
「程々にしてくれないかな、文次郎」
呆れた溜め息で彼らを迎えたのは、生徒でありながら保健室の主とも言われる、不運の頂点保健委員長である。
不運であるがゆえに不運委員会と呼ばれる保健委員会の委員長を務め、不運であるがゆえに怪我も絶えず、不運であるがゆえに後方支援を任される。
保険医の新野を除けば、名実ともに学園で誰よりも保健室に近しい。 その為に保健室の主と呼ばれるのだが、本人はとても微妙な気持ちでその呼称を受け入れている。保健委員長としては嬉しいが、不運的な意味合いでは嬉しくない。複雑だ。
一年生と二年生に薬の調合の仕方を教えていた彼の眼前には、派手に転びでもしたのか、泥だらけになって頬に擦りキズを拵えている文次郎こと、会計委員長。
この上ないほどの仏頂面の下、その両腕には、同じように泥だらけになった会計委員の一年生二人。
そして、その後ろに、三年生を羽交い絞めにして引き摺ってきている、四年生の三木エ門が見える。
「だ、団蔵っ!?それに左吉!どうしたの!?」
文次郎の小脇に抱えられた一年生と知り合いなのか、後輩である乱太郎が飛び上がって叫んだ。
文次郎は、目を回しているようで目覚めない――よだれを垂らして爆睡しているようにも見えるが――小さな後輩を見下ろして、「鍛錬が足らん」と呟く。が、そう呟く彼以下全員に、疲労と睡魔が襲いかかっている事は明白だ。
会計委員全員の顔にくっきりと刻まれたくまを見て、眉間にシワを寄せていた保健委員長――善法時伊作は、その呟きを聞いて渋面を作った。
「君たち何日寝てないんだい?全く……」
溜め息をついて文次郎の腕から一年生を受け取り、「団蔵大丈夫?」と心配げに覗きこむ乱太郎に「大丈夫、ただの寝不足だよ。乱太郎、布団頼む」と指示を出す。
「左近、そっちの子を頼むよ。伏木蔵は水を汲んできてくれるかい?」
下級生の多い保健委員会では、新野先生がいない時は伊作がその場を一人で仕切らなければならない。
もう慣れたものではあるけれど、大勢が来ると静かにさせるのも一苦労だ。
「せんぱぁーい、水桶がないです~」
「あ、そういえば今日留三郎が直してくれるんだった。伏木蔵、悪いけど取りに行ってくれるかい?」
「りょうかいですぅ~」
トタ…トタ…トタ…という一年ろ組特有の妙にホラーな足音を響かせて、伏木蔵が廊下に出ていく。
「まったく、伊作!備品を壊すとは何事だ!」
「仕方ないよ、僕達は不運なんだもの。自分の無茶な鍛錬で怪我して貴重な薬を無駄にしてる文次郎に言われたくないなぁ」
「忍者たるもの、鍛錬を怠るわけにはいかん!ギンギーン!」
「鍛錬するなとは言ってないよ、怪我をするなって言ってるの。怪我をするってことは油断とか慢心とか、忍者の三病が治ってないってことじゃないか。鍛錬するだけで治るなんて馬鹿なこと、まさか考えてないよね」
「あぁ……いや……しかし怪我をするなんて、鍛錬がたらn」
「君はほどほどって言葉を知らないの!ぼくら保健委員会が扱ってる薬だって、使いすぎるとむしろ体に悪いものだってたくさんあるんだよ!分不相応な鍛錬はやめろって言ってるんだよぼくは!」
「あぁ……うん……すまん……」
「潮江先輩がお説教されてたじたじしてるよ……。ねぇ左近、ぼくらの委員長ってさ、やっぱり最強だと思わない?」
「数馬先輩……っべっ別に最強なんて思ってませんけど、その、格好良いとは……まぁ、思います」
用具委員会に続く
「先輩、一年坊主どもの鼻から魂が抜けかけてます!」
「捕まえろ左門!」
「ぼくはねていないぼくはねていないぼくはねて」
「寝とらんで気合い入れんか左門ン!」
アイドル学年と呼ばれることを誉とし同学年の「ほ~っほっほ」な男とどちらが成績優秀なのかで日々争っている彼にしては、随分とボロボロな姿である。
今日も今日とて、 田村三木エ門は上級生と下級生のフォローに追われている。
「程々にしてくれないかな、文次郎」
呆れた溜め息で彼らを迎えたのは、生徒でありながら保健室の主とも言われる、不運の頂点保健委員長である。
不運であるがゆえに不運委員会と呼ばれる保健委員会の委員長を務め、不運であるがゆえに怪我も絶えず、不運であるがゆえに後方支援を任される。
保険医の新野を除けば、名実ともに学園で誰よりも保健室に近しい。 その為に保健室の主と呼ばれるのだが、本人はとても微妙な気持ちでその呼称を受け入れている。保健委員長としては嬉しいが、不運的な意味合いでは嬉しくない。複雑だ。
一年生と二年生に薬の調合の仕方を教えていた彼の眼前には、派手に転びでもしたのか、泥だらけになって頬に擦りキズを拵えている文次郎こと、会計委員長。
この上ないほどの仏頂面の下、その両腕には、同じように泥だらけになった会計委員の一年生二人。
そして、その後ろに、三年生を羽交い絞めにして引き摺ってきている、四年生の三木エ門が見える。
「だ、団蔵っ!?それに左吉!どうしたの!?」
文次郎の小脇に抱えられた一年生と知り合いなのか、後輩である乱太郎が飛び上がって叫んだ。
文次郎は、目を回しているようで目覚めない――よだれを垂らして爆睡しているようにも見えるが――小さな後輩を見下ろして、「鍛錬が足らん」と呟く。が、そう呟く彼以下全員に、疲労と睡魔が襲いかかっている事は明白だ。
会計委員全員の顔にくっきりと刻まれたくまを見て、眉間にシワを寄せていた保健委員長――善法時伊作は、その呟きを聞いて渋面を作った。
「君たち何日寝てないんだい?全く……」
溜め息をついて文次郎の腕から一年生を受け取り、「団蔵大丈夫?」と心配げに覗きこむ乱太郎に「大丈夫、ただの寝不足だよ。乱太郎、布団頼む」と指示を出す。
「左近、そっちの子を頼むよ。伏木蔵は水を汲んできてくれるかい?」
下級生の多い保健委員会では、新野先生がいない時は伊作がその場を一人で仕切らなければならない。
もう慣れたものではあるけれど、大勢が来ると静かにさせるのも一苦労だ。
「せんぱぁーい、水桶がないです~」
「あ、そういえば今日留三郎が直してくれるんだった。伏木蔵、悪いけど取りに行ってくれるかい?」
「りょうかいですぅ~」
トタ…トタ…トタ…という一年ろ組特有の妙にホラーな足音を響かせて、伏木蔵が廊下に出ていく。
「まったく、伊作!備品を壊すとは何事だ!」
「仕方ないよ、僕達は不運なんだもの。自分の無茶な鍛錬で怪我して貴重な薬を無駄にしてる文次郎に言われたくないなぁ」
「忍者たるもの、鍛錬を怠るわけにはいかん!ギンギーン!」
「鍛錬するなとは言ってないよ、怪我をするなって言ってるの。怪我をするってことは油断とか慢心とか、忍者の三病が治ってないってことじゃないか。鍛錬するだけで治るなんて馬鹿なこと、まさか考えてないよね」
「あぁ……いや……しかし怪我をするなんて、鍛錬がたらn」
「君はほどほどって言葉を知らないの!ぼくら保健委員会が扱ってる薬だって、使いすぎるとむしろ体に悪いものだってたくさんあるんだよ!分不相応な鍛錬はやめろって言ってるんだよぼくは!」
「あぁ……うん……すまん……」
「潮江先輩がお説教されてたじたじしてるよ……。ねぇ左近、ぼくらの委員長ってさ、やっぱり最強だと思わない?」
「数馬先輩……っべっ別に最強なんて思ってませんけど、その、格好良いとは……まぁ、思います」
用具委員会に続く
PR
Comment