なぁに、滝。
今捨てたもの?わたしのじゃあないよ。
うるさいなあ、別に話してあげても良いのだけど、それだけの為にわざわざ海くんだりまでついて来たの。
滝も物好きだね。
んー、ちょっと不思議な事があってねえ。
ほんの数日前、わたしはいつも通りに穴を掘ってた。その辺の、手頃な所で。
その日三つ目のターコちゃんを掘ってたら、古びた苦無を掘り当てたのさ。いつ埋められたんだか知らないけど、錆びてボロボロだった。
もう一回埋め直すのが面倒だったんで、落とし物係に届けたんだ。
「食満せんぱーい、落とし物でーす」
「あっ、綾部テメッ!校庭のデカい落とし穴はお前だな!?」
「おやまぁ、本日のトシ子ちゃんはご臨終ですか」
「生物と保健がごっちゃで落ちて被害者多数だ!しかも生物の持ってたカゴが壊れて毒虫は逃げ出すわ保健の持ってた薬草はぶちまかれてクサいわ、大惨事だ!」
「おやまあ、それは大変ですねぇ。ではこれで」
食満先輩が鬼の形相でわたしの頭を掴むものだから、後輩としては無下に無視するわけにもいかないでしょう?
近くにあった兵太夫の罠を少し借りて、一昨日のトシ子ちゃんとちょっとコラボレーションしてみたんだ。中々の出来だったよ。そうだね、食満先輩に善法寺先輩が乗り移ったのかと思うくらいにはね。
その隙にわたしはトンズラかまして、作法室でちゃんと委員会していたよ。
それでね、次の日、また古びた苦無が出てきたんだ。
状況も同じでねぇ、穴を掘っていたらガチンときたんだ。おかげで踏み鋤の踏子ちゃんの刃が少し欠けちゃった。
面倒くさいとは思ったけど、また落とし物委員会に届けに行った。捨てないでちゃんと届けてるんだよ滝、わたしにしては偉いと思うでしょう。
それなのにあのアヒル委員長は半眼でわたしを見下ろしてきたんだ。
「あのなぁ綾部、てめぇ昨日もそうだがいい加減にしろよ。備品を借りていく時は名簿にきちんと記入してけ。あとそこらに穴ボコ開けてくんじゃねーつってんだろが」
その半眼が物凄くムカついて鼻とか色々もげろと思ったんだけど、何か勘違いしてるみたいだったからわたしは冷静に聞いた。
「何も借りてないですけど」
「んじゃその苦無はどっから持ってきたんだよ。昨日お前が届けた苦無じゃねえか」
「落とし物です」
「いーや違う。昨日その苦無は研いだから、錆の形や刃の欠けまで覚えてる。それはお前が昨日持ってきた苦無だ」
聞いてみたらその苦無、用具倉庫からなくなってたらしいね。
まったくこれだからアヒルとその子供たちは。ちゃんと用具管理してくれないものかな。あのぽよふよな一年を抱えてるからって、許されることじゃないよ。
なあに滝、用具の仕事を増やしてるわたしの言うセリフじゃないって?
知ってるけど?
まあだから、一応口に出さなかったよ。
でもまあその気持ちが顔に出てたみたいで、用具の三年が怯えてた。
だってわたしは「苦無を掘り出した」んだ。用具倉庫から持ち出した犯人は別にいるってことだ。
用具委員会の管理の甘さのせいでわたしがいちゃもんつけられる謂われはないよ。
ムカついたけど反論できる証拠もないし。腹いせにその日はトシ子ちゃんを十個作っちゃった。
次の日、また苦無を掘り当てた。
ちゃんと前の日に、アヒル委員長に渡したのにね。これは完璧にあのアヒルの失態だよ。
流石にイラッときて川にぶん投げにいったんだけど、ちょうどギンギンが水中に潜伏してたらしくて。真冬に水遁とか、あのひとの下にいる三木が哀れだね。
でねえ、ギンギンうるさく言われて、仕方ないから用具倉庫までついてった。
あの日、冬にしては珍しく物凄い土砂降りになったじゃない。あれね、アヒルとギンギンが息を合わせてお説教なんてしてたからだよ。
おかげで作成途中だった落下星四号が水で埋まっちゃった。
次の日腹いせに、立花先輩と兵太夫を誘って六年の自主練コースに思いつく限りの罠を仕掛けてやったよ。
それで、まあ今朝のことなのだけど。
おやまあ、何ということだろうね。また出たんだ。
わたしもいい加減、アレが鉄で出来てさえいなければぶち折ったり立花先輩に預けて爆破したいところだったんだよね。
幸い今日は休日だし、海にぶち込んで、芯まで錆で滅べと思って。
そこに、滝がいつものように何か喋くりながら登場したんだよ。
そういえば滝、何しに来たの?
苦無が海からも戻ってきたら?
学園長先生にかけあって、鍛冶職人のところで鋳融かしてもらおうかな……。
嫌だね滝、わたしを何だと思ってるの。妖しのものの退治の仕方なぞ知らないよ。わたしはごくごく普通の人間だもの。
なぜだか皆首を傾げるけどねえ。
同輩のコメント
滝夜叉丸:
どの口が普通の人間だなどとのたまっとるのだお前は!お前が普通だったら今頃学園はとんだ危険地帯になっとるわ!
大体だな、あの鉢屋先輩でさえ無言で道をゆずるような顔して飛び出すから周囲や通りすがりの人々にどんな迷惑がかかるか知れたものではないと心配して海までついてきてやったこの私平滝夜叉丸は同室の鑑~(以下自慢話)~感謝してもよいのだぞ!さあ!
……ん?何っ!?待て喜八郎いつの間にそんな遠くへ行った!?というか私の話を聞かんか!
何だ?いかにもこの平滝夜叉丸、委員会の花形~(以下自慢話)~七松先輩は私の先輩だが?
何を言う喜八郎、いかに七松先輩といえど気合だけで物の怪を退けているわけではない!
敢えて言うならそう……腕力だ!
って聞けえええい!
何だその地味にダメージの来る顔は!折角飾れば中々の顔立ちをしているんだからそんな顔するんじゃありません!美に気を使うのも~(以下略)~
というか、仕方ないだろうが事実なんだから!まあ力技とはいえ物の怪を退けられるとは流石はこの~(略)~体育委員会を率いるにふさわしい!
……ん?おや?おい喜八郎?何処へ行った?あっ、待て私を置いていくとは~(略)~
先輩のコメント
留三郎:
すまん!俺が悪かった!悪かったから綾部、保健委員の通る道に作法スペシャルなんぞ仕込むな!頼むから!
伊作なんかな、ここ数日で着物のツギが三十九カ所だぞ。毎夜毎夜ちくちく直しつつ、「留さん、ぼく今日、朝から食堂に辿り着けた試しがないんだ……」って呟いた伊作が……俺は不憫でならねえよ……。
あの苦無の事に関しちゃあ、三回目あたりから薄々感付いちゃあいたんだが、綾部お前な、あんな明らかに怪しいもんを学園内に捨てんなよ……。寺に持ってけ寺に。
でもまあ、お前がイヤじゃなきゃ、持ってていいと思うがな。だって、なくしても戻ってくんだろ?便利じゃねえか。
アレッ?なんで俺溜め息つかれてんの?気のせいかな、「これだからは組は……」て仙蔵とアホ文次郎の声が聞こえたような……ん?
あってめ文次郎!いつの間にいやがったてめえには言いたい事が~(以下殴り合い)~