お前ら好きだよなー、オバケの話。
ていうかオバケってそんな珍しいもんでもないじゃん。
あ?あ~あ、見たことあるぜ。
ん?そりゃあゼニ次第だな!
なーんちゃってウソウソ、じょーだんだってジョーダン!話すってば、んな怖い顔すんなよ~。
学園入る為にゼニ貯めてた頃の話だったかな。
その時は橋の下に住んでたんだけどよ、朝も夜も働いててあんまり帰らねぇんで、別の奴が住み着いちまってさー。
今日の寝床どーすっかなーて思って神社の近くをウロついてたら、小さい掘建て小屋があったんだ。
もう日も暮れてて、その辺で野宿するしかねぇかなって思ってたから、ちょっくらお邪魔さしてもらえねーかなと思ってさ。
んー、けっこーさぁ、キレイな着物着たオネーサンより、小汚ねえおっちゃんの方が優しかったりするんだぜ。
傍目に見てもボロ小屋だし、そういう気のいいおっちゃんがいるんじゃねーかなー、って。
だけど近づいてみて俺は首を傾げた。
入り口に下がってる風避けのこもがボンヤリ光ってたんだ。
夕焼けみたいな紫色にだぜ?
オバケかな。
寺を寝床にしてた時に人魂もユーレイっぽいのも見たし、戦場に弁当売りに行った時に透き通った騎馬武者が走ってくのも見た。
珍しいもんでもねーし、ゼニになるワケでもないし、襲ってくるワケでもねーし、ちょっと遠巻きにはしてたけど、特に興味もなくてさ、どーでもよかったんだよなぁ。
たださ、俺そん時オバケなんかと関わってる暇なかったんだよ。そんなヒマがあんならバイトして、ゼニ貯めなきゃなんなかったんだ。
そういうわけで離れようとしたら、急にこもが上がって、ばーちゃんが顔を出した。
「こんな時間に子供が一人で、どうしたえ?」
「寝るとこ探してんだ」
「おやまあ、宿無しかえ、その若い身空でねぇ。屋根貸すかい?」
「いいよ、おばちゃんの寝床だろ」
つーか、寝てるうちに魂とられたくねえし。
「おやそうかい、そんならこれを持って行きな」
ばーちゃんはものっすごくボロいむしろをくれた。
正直オバケかもしんねえばーちゃんからモノ貰うのは気が引けたけど、悲しいドケチの習性さ。俺の手はしっかりむしろを受け取ってた。
まあ、野宿するつもりだったからすげえ助かったけど。
「これタダ?」
「こんな子供から何もとりゃしないよ!全く、何考えてんだい」
ばーちゃんは悪い人じゃなかったみたいだ。子供からでも何でも毟り取って行く奴も居るしな。
いやー、返す返すもばーちゃんはマジでいい人だった!
俺も最初は警戒してたんだけどさ、バイトも紹介してくれたしたまにご飯分けてくれたし。
なんか仕事のー、あー、斡旋?とか、やってたみたいでさ、色んな客が来ててよう。顔なじみのおっちゃんとかおねーさんとかもできて、よくオヤツくれたから食費が浮いてなー、マジで助かったな。うん。
……んーとな、ホントかどうかは知らないぜ?知らないけど、お武家様の庭に忍び込んでとってきたカキだとか、山神様の差し入れのアケビだとか、変な曰く付きのオヤツばっかだったけど。
……まあ、人間ぽくなかったしなー、あん人たちさあ。
相変わらず夜になると入り口はブキミな薄紫に光ってたけど、俺には良い処だったんだぜ。
だけどなあ、ある朝いつも通りに小屋に行ったら、壊されててさ。
後でバイト先のおばちゃんたちに聞いたんだけど、「不気味に光る小屋」ってんで肝試しスポットになってたらしいんだ。んで、肝試しに来た御大家のお坊ちゃまがビビって転けたかなんだかで怪我したんだと。そんで呪いだって大騒ぎしてさ、取り壊すことになっちゃったんだって。
そんでまあ、ビックリした俺がばーちゃんを探そうとして飛び出そうとしたら、……いつの間にかばーちゃんは気配なくぬぼっと後ろに立ってた。
「うわっぎゃあああ!?」
一瞬犬よりでかいイタチが立ってるように見えたんで、腰が抜けた。
「もうここにゃあ居られないねぇ。あたしは山に帰るとするよ」
ばーちゃんは寂しそうに言って、俺を振り向いた。
「きり丸、あんたも来るかい?あたしの住んでた山は豊かなところだ。飢えることはないよ」
ばーちゃんの目が動物みたいな、なんていうか、白目がほとんど見えないような真っ黒い目になってるのを見て、俺も気付いたさ。
あー、ばーちゃん、気付いてたんだなってさ。
えーと、や、だからさ。
ばーちゃんトコに来てた気のいいおっちゃん、にーさんねーさんが、人間じゃないって俺が気付いてることに、ばーちゃんも気付いてたってこと。
……まあ、こう言っちゃなんだけど、人間のフリすんのがドヘタなひとも居てさ、バレバレっちゃバレバレだったんだよな。
お互い知らんぷりして、居心地良い場所にしてたんだ。
いい人……ヒトじゃねーけど、いいオバケばっかだったからさ、俺も知らんぷりしてたんだ。なんか知んないけど、オキテみたいなもんでもあんのかもな。そんな雰囲気?してたから。
深入りしない、深く聞かない。
こーゆーオキテみたいなの、忍者にもあるよなぁ。
たぶんばーちゃんはそれを破って声かけてくれたんだと思う。
だから、っへへ、すっげえ嬉しかった。
でもばーちゃんに迷惑かけんのは嫌だったし、その時はもう忍術学園に入る為のゼニもたっぷり貯まってた。ばーちゃんの斡旋してくれたバイトのおかげでさ。
だからさ、心配かけないように、めいっぱい笑って、忍術学園行くんだって断った。
「そうかい、頑張んな。達者でいるんだよ」
村出てからあんな親身になってくれたひと居なかった。いいひと達だったなあ……。
また、いつか会えるかなぁ……。
――な、なんだよ皆、なんで涙ぐんでんだよ。別に泣くとこじゃないだろ?
あっ、ま待てまってしんベエ泣くな~!あ~!内職の花に鼻水がぁ~!
あ、そーいや後日談でさ。
ばーちゃん達と別れた次の日起きたら、枕元に木の実とか藁靴とか蓑とか、色々置いてあってよ。
こんなことすんのばーちゃん達しかいないだろーなって思って、置き土産はありがたく頂いたぜ!タダだったしな~♪でへへへ~タダ~♪タダ~♪
はっ!?わりいわりいタダっていう響きにうっとりしてた。
あ、そーだ!置き土産っていやあ、もひとつあってさあ!
風のウワサだけど、例の御大家のお坊ちゃまにも置き土産あったみたいだぜ。
――ブブフ……っ!それがさ!朝起きたら屋敷中がウンコだらけだったんだってよー!
あっははははは!!な!笑っちゃうだろ!
屋敷には色んな動物の足跡がたくさんついてたらしいぜー。
ぐぐふっ、と、特に、お坊ちゃまの顔にな……っ!
誰だか知らねえけど、スカッとする事してくれるねえって下町じゃあ暫くお祭り騒ぎだったぜ。