すごいんだぜ照星さんってば!
もうホントすごい!
マジで惚れるって!ぼくはもう惚れてるけど!
ふふふ……聞きたいか?照星さんの超カッコイイ逸話を!
あれはさ、ぼくが遠出した父ちゃんと照星さんについてった時のことだよ。
ちょっと偵察みたいな感じだったらしくて、父ちゃんは仕事着じゃなかった。照星さんはバッチリ仕事着だったけど!バッチリ!忍装束!ヒュー!カーッコイーイ!
あイテぇっ、何するんだよ三治郎!
暑苦しいって……照星さんを語るのに熱くならないワケがないじゃん!?
だからお願い兵大夫その握ったヒモをはなしてくださいおねがいします!
あっ、うん!それでさ!ぼくは父ちゃんの馬に相乗りだったんでちょっと残念だったんだけど、馬に乗りながら銃を担いでる照星さんをガン見してた。
それがさ!全然揺れないんだよ!もうなんていうか銃は体の一部的な!?
人馬一体じゃないけど、人銃一体的な!?馬に乗って銃持ってても、パッと見全然違和感ないんだ!プロだよなああ~!
それで、父ちゃんと照星さんが大人の話するからその辺で遊んできなさいってさ。チェって思いながらその辺の林で虫採りしてたんだ。
林は思ったより小さくて、すぐに向こう側に出た。
で、その向こう側がさぁ。たぶん、古戦場だったんじゃねえかな。
野っ原でさ、錆びた槍とか刀とかがぽつんぽつんと立ってたんだよ。ボロボロの鎧も見つけたし。え~まあ、気にしないで花摘んだり虫追っかけたりしてたけど。
カマキリを見つけてさ、すっげー!でっけー!と思って近づいたんだ。
一歩踏み出して、足元に寝転がってたおじさんと目が合った。
昼寝でもしてたんかな~、変なおじさんだった。草の間からにゅっと顔だけ出してさ。びびっちゃったよ。
「ぎゃー!?」
思わず尻餅ついて叫んだら、おじさん怒ったみたいでサ。
こう、ギョワッ!て目ぇ開いて、熊が喉に栗詰まらせたみたいな声で唸るんだ。やばい変なおじさん怒らせちゃったーと思って、逃げようとしたんだけどさ。
そうしたらよう、変なおじさんが増えてたんだよ!
しかも一人じゃなくて、三人四人って新たなおじさんが湧いてきてさあ!
なんだろあのおじさんたち、真っ昼間から人里離れた野っ原に集団で昼寝とかさ、いい年こいた大人がさー。絶対嫁さんいる年齢だったよ、家に帰ったら母ちゃんとかに働け!って怒られてんだろうなあ。
ってその時は思ってた。
草の間から次々起き上がってきて、皆寝ぼけて目の焦点合ってないし、変な唸り声上げてるしさ。
そういや、足軽みたいな格好してたような気もするけど、変に時代がかった服着てたなあ……いや、わかんねえけど、そんな気がしたんだよ。
そう、それでその変なおじさんたちに囲まれちゃって。
真っ昼間からこんなところで昼寝してるオジサン集団がまっとうな人たちのワケないしさ、あ逃げなきゃって思った。
なんか怖い顔で睨まれて……睨まれ?てた?かな?……うーん、とりあえず、怖くて気持ち悪い目してた。
あー、今思い返してみると結構危なかったかもしんねえや。
最初に怒ったおじさんが、口からなんか飛ばしながら襲ってきたんだよ。
そこで!ぼくの耳を銃声が劈いた!
銃声と同時におじさんたちは一瞬で消えて、ビックリするくらいたくさんのカラスがぼくの足元から飛んでった。
ハッと目をやった先には、硝煙をたなびかせる銃を構えた照星さんの姿が……!
「大丈夫か、若大夫」
「はいい!もっちろんでっす!」
照星さんはゆっくりと構えを解きながら立ち上がった。その動きの力強い事といったら!
ぼく思わず両手を握りしめて乙女ポーズしちゃった!
もーいやだなあ団蔵、わっかんねーの?
変なおじさんたちは古戦場をさまようユーレイだったんだよ!たぶん!
そういやあなんか手とか足とか目とかない人居たし!
そんな怖いユーレイに襲われかかってたぼくを銃声一発で救い出すなんて、照星さんってば本当にカッコいいんだからー!惚れてまうやろー!
いいなあぁ、ぼくもあんな風になりたいなああ。
あっ庄左エ門いいところに!聞いてくれよ照星さんってばスゴいんだぜ!
あ、乱太郎!なあ乱太郎も聞いて!照星さんがさあ!
佐竹村所属・プロ忍のコメント
照星:
おや、私に何か用かね。
亡霊を追い払った?何の話かな。
ふむ?古戦場……若太夫が?ふむ、それは亡霊ではない。鴉だ。
若太夫は具足をつけた男たちに囲まれたと言っていたが、私が見た時の若太夫は夥しい数の鴉に囲まれていた。
鴉は他の鳥類に比べ頭が良い為、忍びが仕込んで使うこともあるが、決して温厚な鳥ではない。戦場に屯する、屍肉を喰らう鴉なら尚更だ。
案の定、尻餅をついた若太夫に襲いかかろうとしていたので、銃で威嚇して追い払った。
……しかし、一つ解せない事がある。
あの大群と言っていい数の鴉が若太夫の周囲に集まるのに、私も昌義殿も全くと言っていい程気付かなかった事だ。
羽音は大きく、体も大きく黒い鳥がたくさん飛んでいれば気付きそうなものだが……。