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嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2025/07/05 [13:08:52] (Sat)
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2013/12/20 [22:13:00] (Fri)
吉野作造

拍手[8回]




 夜中なので静かにしていただきたい。
 良い子の生徒は皆寝ておりますのでね、大きな声を出すのはいけません。


 これは失礼、私、用具顧問の吉野と申します。


 あなたの名前は――答えていただけないと存じますのでね、尋ねるのは止しましょう。

 何も喋っていただかなくても結構ですよ。我々としても見当はついておりますゆえ。


 ――まあそう、殺気を撒き散らすものではありません。


 先ほども言ったでしょう、静かにしていただきたいと。良い子の生徒の気を昂らせて不利になるのは、あなたですよ。

 何故分かったのか、と聞かれましても……まずあなたがたが緩み切っているのが原因ではないかと推察しますね。

 あなたの城の忍を捕らえるのは、今月で六回目にもなるので。



 さて。

 あなたのお仲間が迎えにいらっしゃるまで、話でもしましょうか。

 なに、誘導して情報を吐かせようと言うのではありませぬよ。嘘か真か分からぬ、ちょっとした不思議な噺でもしてさしあげようと思うだけです。


 ――疑り深い方ですねえ、言ったでしょう。我々としても見当はついている、と。


 あなたが知っている程度の情報は、我々はとうに掴んでいるのですよ。

 わかったら大人しく、口を貝のように閉じて、お迎えを待ちなさい。

 私の噺は暇つぶしだとでも思えばよろしいのです。



 この学園にも人間以外の色んなモノがおりましてね。

 例えば、壁を漆喰で塗りますとね、いつの間にか子猫の足跡がついているのですよ。

 それも地面付近に慎ましく、気付かれない程度の深さでね。可愛らしいもんです。


 何度補習してもすぐ腐れてしまう廊下もあるのですが、とんと理由がわからないのですよ。外的要因はなにもありません。ですがすぐ腐れてしまうのです。

 ですがそういった場所に学園関係者以外――例えばそう、あなたのような部外者が通りかかったりすると、足をつけた場所が一瞬で真っ黒に朽ちるのです。

 足跡一つとっても、情報は得られるもの。

 侵入者対策に、とても便利ですよ。


 便利と言えば、外塀の瓦に、人が通りかかると音を立てる瓦があるのですよ。

 これもまた、金具が緩んでいるのかと何度か補修をしているのですが改善する様子もありませんので、きっとそういうものなのでしょう。

 どんな手練の侵入者でも、物が勝手に音を立てては忍ぶものも忍べません。

 なかなか、重宝しておりますよ。


 学園七不思議なるものがあると生徒から聞いた事があるのですが、私から言わせれば、七つ程度ですむかどうか。いえ、数えた事はありませんがね。

 用具の貸し出し名簿に、学園生徒ではない人物の名が記載されている事もあります。……いえ、人物と言って良いのか、非常に悩む名であることが多いのですがね。

 用具ですか?ええ、実際になくなっていますが、期限内に帰ってくるのであればそう文句もありませんのでね。非常時に欠けていると流石に困るので、できれば止めていただきたいのが本音ではありますが。

 名を拝見するにどうにも止ん事無き方々であるようなので、もう差し上げたと考えてもう一つ同じものを用意するようにしたり、対応にも苦慮しているのですよ。

 おそらくは私などよりずうっと前から用具倉庫を利用していらっしゃるようですからね、ええ。うっかり道具の配置換えなどすると、お叱りを受ける事もあるのですよ。生徒より私のところにお叱りが来る事が多いのは幸いと言っていいのか、まあ勝手知ったる、ということなんでしょうかねえ。


 そういえば学園には井戸がいくつかありますが、使用できない井戸もいくつかありましてね。

 ええ、毒が投げ込まれているんです。訳は言わずともお分かりでしょう、曲者殿。
 そう、行儀の良くないお客さんが色々投げ込んでいったのですよ。

 ところが、何を投げ込まれても決して毒されない水源が一つ、ありましてね。

 きっと、何か棲んでいるのでしょうねえ。
 なにせ、その行儀のよろしくないお客さんは手酷いしっぺ返しを受けたようですから。

 はてさて何処のどちら様が棲んでいるのやら、生徒が普通に使う分には何も問題はありませんので、とくに気にもしておりませんけれども。


 ああ、枯れ井戸もありますよ。生徒が落ちないようしっかりと板を打ちつけてありますがね。

 しかし困った事に、この板が時々外れてしまうようでして、稀に生徒が落ちている事があるのですよ。そう深い井戸ではありませんから、下級生でもないかぎり自力で出てこられる筈なのですがね……。

 生徒達はね、しっかりと打ちつけた板の下に、どうやってか落ちてしまうようなのですよ。ですから、上がろうにも分厚い板に邪魔されて、中々上がれないのだとか。

 近辺を立ち入り禁止にしておりますから、今では生徒は落ちませんが、稀に落ちる方がいるようですね。

 そう、あなたのご同輩の一人は、そこで見つかったそうですよ。
 大変衰弱されていたと聞きますが、彼、その後どうしておりますかね。

 ――いやはや騒がしい方ですなぁ、あなたは。

 忍びとは思えないほど感情豊かでいらっしゃる、それでは腹の探り合いなど到底無理でしょう。忍者の卵の最下級生ですら腹芸をしてのけるというのに、そんなでは色んなモノに好かれてしまいますよ。

 人の世で生きるならば善いことですよ、得難い性質でしょう。

 ですがあなた、忍びですよ。

 悪鬼羅刹、魑魅魍魎――それが決して比喩ではない鬼の世に近いというのに。わたしは悪鬼に好かれて長生きした者なぞ見た事がありませんねえ。

 あなたは少し静かにした方がよろしい、寝る子を起こすと鬼が来ますよ。

 そうそう……この学園に忍び込んで、空き部屋に潜んだことはありますか。

 なにせ広いですから、空き部屋も一つや二つじゃきかないという事はご存知でしょう。生徒が多い年などはほぼ全部埋まってしまったりもするのですが。

 空き部屋に忍んで、不思議に思った事はありませんか。

 おやおや、本当に気付いておられない?駄目ですねえ、あなたも忍びならもっと精進される事をお勧め致しますよ。

 空き部屋の障子に、穴が開いていたでしょう。丁度子供の指先ほどの、小さな穴ですよ。

 おや、穴などありませんでしたか。
 では、穴を補修した痕なら、きっとたくさんあったのでは?


 覚えがあるようですねえ。
 そう、学園の空き部屋の障子には、必ず小さな穴があるのですよ。まるで覗き穴のような、小さな小さな穴です。

 結構な頻度で補修しているのですけどね、補修した次の日には新しい穴があいていますね。生徒の悪戯?そうかもしれませんね、私もそう思って一度、空き部屋で寝ずの番をしてみた事がありました。
 学園に着任してすぐの頃でしたから、あまり慣れていなかったのですよ、私もね。

 丁度丑三つ時、ぱすっと音がして、内側から――言い間違いではありませんよ。私以外の誰も居ない部屋の内側から、穴があきました。

 音と同時にそちらを見たのですが、気配も何も感じなかったので、最初ひどく驚きましたね。
 どうやら、この部屋は空き部屋ではなかったようだ、としみじみ思ったものです。

 おや……顔色が悪いですよ。

 あと半刻もすれば迎えが来る手筈ですが、医者がご入用なら遠慮せずに言って下さって結構ですよ。我々はそれほど狭量ではありません。

 ……おやおや、忍びにとってそれは褒め言葉ですよ。

 私とて卵を育てる身、その程度言われるようでなくば、後進の見本にはなれませぬでしょう?

 ますます顔色が悪いようだ、医者を呼んで参りましょう。

 ふふふ――失礼ですねえ、あなたは。ですが喜んでその言葉、受け取りましょう。

 では、二度と会わない事を祈っておりますよ。






のち、廊下での会話:


「ええとですねえー、吉野先生、患者が泡吹いているんですけども、何かしたんですか?」

「ふうむ、少し脅しすぎたかもしれませんねえ。いやいや、ちょっとした怪談をお話ししてたんですよ。ある事ない事混ぜてね」

「ほほお、吉野先生の怪談ですか。もしかして、極めつけに最後、蝋燭で顔を照らしながら笑ったりしましたか?」

「そりゃあ怪談の醍醐味ですからね!蝋燭でこう、顔を下から照らして、できるだけ不気味に笑ってやりましたとも」

「ははあ、なるほど……。ま、身体検査で薬物の類いは全て没収されてますし、大した事ではないでしょう。きっと吉野先生の怪談が怖すぎたのですね」

「ふっふっふ、聞いて下さいよ新野先生、彼、私の事をお化けだと思ったようで、色々喚いてたんですよ。まだまだ私の忍びの術も衰えてないって事ですね!」

「あ、すみません吉野先生、蝋燭を顔の下に持ってこないでいただけますか。そうですか、よっぽど怖い思いをしたんですねえ、かわいそ……ゴホン、もとい、吉野先生の実力がすごすぎたんですねえ」

「そうでしょうそうでしょう!いやあ今日は気持ちよく眠れそうですよ、ではあとはお願いしますね!」

「はいはいわかりました、お休みなさい。さて……とりあえず、白湯でも作ってあげましょうかねえ。学園のいかにも曰くありげな道具類の管理主任、吉野先生の怪談なんて……、私でも聞きたくないというのにねえ。不運な人だ……」

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