あっ、きり丸ぅ!庄左エ門!おはよう!今日もさっむいね~。
本年もどうぞよろしくお願いします!
へぇ~、そうなんだ。しんべエんちの正月飾り見てみたかったなぁ。
きり丸は?バイト先のおばちゃんがおモチくれたの?よかったじゃない!ちゃんと土井先生と食べた?
そうかぁ、よかったねえ~。
え?わ、私?
私はね~、その~。
……いつも通りだったんだけど、ちょっとだけね、変わった事があったよ。
ホラ、私んちって農家のフリしてるじゃない?
だから今年も野菜の収穫があってね、もちろん私も手伝ったんだけど。
えへへ、今年はいつもよりた~くさんとれてね!こぉんな大きいのとかもとれてさ!
いつもはその日のうちに売りに出す分を選り分けるんだけど、すごくたくさんとれたから日暮れまでに間に合わなくてね~。
父ちゃんと一緒にひいひいふうふう言いながら家の中に積み上げてたら、母ちゃんがとれたての野菜でけんちん汁作ってくれててさ!
食堂のおばちゃんのゴハンもおいしいけど、私は母ちゃんのけんちん汁が一番かなあ。
ゴハン食べた後は父ちゃんと忍術の修行してさ、寝たんだけど。え?
ああ、修行って言ってもキャッチ手裏剣とか、夜目を鍛えるとか、学園でやってるのと変わりないよ。そんなすごくないってえ~。
うん、でね、変な事があったのはその夜さ。
ちょっと厠に行きたくなって目が覚めたんだけど。
……土間の方から、変な音がしてた。
何かが落ちるみたいな音が、
ぼとっ、ごとっ、ごろり、
それと、
ぎい、ぎしっ、みしり、
って、木がきしむみたいな音。
何だろ、って思ってメガネかけてみたら、土間の戸口に、小さくて白っぽいものがいくつも動いてるのが見えてさ。
野菜かじりに来たネズミかなって思ったんだよね。
だから外に追い出そうと思って、戸口を全開にして、小さいものを外に出したんだ。
もうこの寒いのに、やだなあってのん気に思ってたんだけど……。
ね、今の季節って、月の光がすごく明るいよね。
忍びじゃなくても外を歩くのに困らないくらい、月が明るい日が多いでしょ?
だからね、一目で分かっちゃったんだ……。
私んちの前にごろんごろん転がったのは、ネズミじゃなくてね。
じたばた暴れてからすくっと立ちあがったそれは……それはね、ダイコンだったんだよ!
私んちの!
昼間にとったばっかりのネギとダイコンがね、ぴょっこんぴょっこんはねたり歩いたり!
土間でしてた音は、ネギとダイコンが立ち上がろうとしてる音だったみたい。
私夢でも見てるのかなって思ったよ……。
たまげて尻もちついてた私の前を、野菜がぞろぞろ通っていくんだよ。
もうたまんなくて叫んじゃった。
「と、と、とっ、父ちゃあああああああん!!!」
「どうした乱たろ、おっ!?なんじゃこりゃあ!?」
「とうちゃん!や、やさ、やさいがっ!!逃げてる!」
「何だってぇ!?」
「「母ちゃん!」」
「ちょっと父ちゃん!今日の収穫がないと、来期の乱太郎の学費がなくなっちゃうわよ!」
「えええ母ちゃんそれホント?!」
「あらそうよぉ乱太郎。それに明日からのけんちん汁も作れないわねえ」
「「な、なんだってえええ!!!?」」
あんなに、あんなに楽しみにしてた母ちゃんのけんちん汁が!明日から、ない?!
私と父ちゃんは顔を見合わせて、力強くうなづいた。
父ちゃんはまるで仕事に行く時みたいにキリリとした顔で、寝間着をぬぎ捨てて野良着を着た。
ここ一年で一番カッコイイ父ちゃんだったなあ。
「全部とっ捕まえるぞ、乱太郎!」
「はい、父ちゃん!」
もうね、大変だったよ……。
動きがのろかったから捕まえるのはカンタンだったんだけど、カゴに入れてフタしておかないとすぐ逃げ出すんだ。
カゴの中でもじったんばったん暴れてさあ、カゴが壊れちゃうかと思ったもの。
けっきょく朝まで野菜を見張ってたから、次の日は眠くってさ~。
ん?えっとねー、最終的に、母ちゃんが怒って塩をバーッてぶっかけたら、普通の野菜に戻ったかな?
おかげで、その日からしばらく塩気のないゴハンばっかりだったのが悲しかったよ……。
うぅーん、犯人ねー……近所の山に居るタヌキかなんかが化かしてたんじゃないかと思うんだけど……。
あ、ええとね、朝になって畑行ってみたら、タヌキの親子っぽい足跡がたくさんあったからさ。
父ちゃんと私が必死に野菜捕まえてたから、怯えて逃げちゃったんじゃない?
野菜?ああ、売れた売れた!
学費もできたし、苦労したかいがあったよ!
……あっ。
……えーとね、きり丸。
こんな話したあとで悪いんだけど、これ、母ちゃんからきり丸と土井先生にって……。
………うちでとれたダイコンとネギ、です………。
今年豊作だったからおすそ分けにって……い、いる?
新年の挨拶に来た同輩のコメント
きり丸:
うっひょおおおおお!サンキュー乱太郎!
だーいじょうぶだってぇ、多少歩こうがなんだろうがもらえるもんは何でもいただきますよ俺は!それに乱太郎んちの野菜だぜ、乱太郎も毎日食ってんだろ?大丈夫だよ!
すげえ、でっけえなあ!これで冬休み中の食費が浮いたぜ、うっけっけっけ。
乱太郎の母ちゃんにお礼言っといてくれな!
土井先生も喜ぶぜー、具のある汁物なんて久しぶりだからな!
庄左エ門:
えっきり丸?具のある汁物って……おモチもらったんじゃなかったの?
……薄めすぎておかゆみたいになったぁ?モチが液体化するって、どんだけ煮込んだのさ。
……今度、土井先生に炭と味噌差し入れしようかなぁ。
しかし、タヌキの親子かぁ。
化かしてまで欲しいっていうくらいだから、よっぽど乱太郎の家の野菜が食べたかったんだね~。
でも、何もわざわざ化かさなくても、収穫前に畑に食べにくれば良いと思うんだけど……え?あ、そうなんだ。
忍者仕込みの罠が畑の周りにあっちゃあ、そりゃ近づけないよねえ。
成る程なぁ……もし乱太郎が良ければ、少しだけお裾分けしてあげたらいいんじゃない?もしかしたら、恩返しとかしてくれるかもよ?
後日・母ちゃんのコメント:
乱太郎は冬休み終わっちゃって学園行ったから知らないだろうけどねえ、あれ、近くの山に棲む狢の仕業だったわよお。
え、なんでわかったのかって?
お椀もってけんちん汁貰いにきたんだよぅ、狢の親子が。
子供育てる大変さは分かってるつもりだからねぇ、鍋ごとあげたわよ。
春になったら、戸口の前に鍋一杯の山菜がおかれててねえ、恩返しなのかしら、気にしなくていいのにねえ。
山菜は父ちゃんと二人で美味しくいただいたけどぉ、おほほ!