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嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2025/07/06 [02:35:21] (Sun)
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2015/03/02 [21:18:05] (Mon)

鉢屋三郎


拍手[13回]



 とある城の……城主の部屋でな、恐ろしい目に遭った事がある。


 城主の趣味なんだろう。その部屋にはずらりと面が並んでいた。
 翁の面、媼の面、小町の面もあれば男面もあった。翁の面一つとっても、表情の違ういくつもの面があってな、笑い顔、泣き顔、細面、よくまあ集めたもんだ。……いや、鬼や狐の面はなかったな。のべつ幕無しに集めているという訳でもないんだろう。

 その部屋に課題の物があってな、私は面に見守られつつ探し物をしていたんだ。
 ん?いや別に、私だって面を並べておく事は珍しくないからな。私の場合木彫りの面ではなく顔に張り付ける特殊な面だがな。
 まあそういうわけでな、貌に囲まれるのは慣れていたし、最初はそう気にしなかったんだ。
 気にしなかったんだが……。

 視線を感じた。

 気配はない、それなのに、どこかから視られているような……。しかも、それが複数あるような、そんな気がした。
 だが現実に気配は感じられず、しかし気のせいで切って捨てるにはあまりに、何と言えばいいか……勘に確信を持ってしまっていたんだ。

 私は自分の勘にそれほど重きを置いていないが、ハチの勘働きというものの侮れなさを知っている。
 だから勘やら予感やらも、気のせいかもしれないが可能性の一つとして、常に頭の片隅に置いておくようにしているのさ。

 余程の手錬か、それとも罠か。
 ただの気のせいであればいい、そう思いながらもいつでも迎撃できるよう、身構えながら探し物を続けていたんだが。
 暫く視線の主を探り続けていたら、何とか方向だけは掴む事が出来た。

 どうやらその視線はな、面がずらりと並んだ壁の方から感じるんだ。
 面の並んだ壁の向こうは漆喰の白壁、しかも天守近くの高さだ。からくりだの忍びだのが潜む隙間はない。

 気のせいだったか。

 壁に並んだ面が一様に私を見つめているような、そんな居心地の悪さを感じていたが、私は気のせいだという事がわかって少しホッとしていた。
 首筋の毛が逆立つような妙な寒気も、気のせいだと思っていたんだ。
 だがまあ、気のせいにしても、居心地の悪い空間に長い事居たいとは思わないだろう?
 さっさと終わらせようと、探し物の手を早めた。
 慣れていた筈の面だらけの空間が、ようやく不気味なものに思えてきて、気のせい、気の迷いだ、と己に言い聞かせていたよ。
 この時までは。

 笑ってくれ雷蔵、勘を馬鹿にしてはいけないと思いつつも、この時私は自分の勘を無視していたんだ。

 カタリ、と音が鳴った気がして、ハッと顔を上げたんだ。

 そうしたら、な。




 目の前に、沢山の口が迫っていた。



 声を出す暇も武器を出す間もなく、それは、そいつらは。



 翁、媼、小町に男――壁に掛っていた全ての面が、大口開けて私の顔に喰いついた。







 ――っちょっおま、お前ら落ち着け!落ち着けこのばか!ごふっ……やめっ……はな、れろっていうのに!!
 私は生きてるだろうが!何なんだ今此処にいる私は幻か?!お前らの見てる幻覚か!
 狐狸妖怪の類が化けてるとでも言うつもりか!?

 ……………………何故そこで真面目に悩むんだ……ハチの阿呆はともかく、雷蔵……君まで……っ!

 日頃の行いだと?うるさい、私が狐の化生ならお前は狸だろうがこのバカ勘。バ勘右衛門が。
 あ?あー……豆腐小僧じゃないか?
 いや、むしろそれ以外ないだろう兵助は。
 なんで少し嬉しそうなんだ……兵助が本当に豆腐小僧だったとしても私は驚かないからな。




 おい、話を戻すぞ。

 ああ、それで――……気付くと、私は大の字に倒れていた。
 全くとんでもない失態だ。敵の陣地で一瞬でも前後不覚に陥るなんてな。格子窓から見える日の高さは変わってなかった、意識が飛んでいたのはほんの短い間だったんだろう。
 その事に少し安心して素早くと起き上がると、手に痛みを覚えて、


 見ると手に砕けた面が喰いついていた。


 恐らく、襲われた時に反射的に反撃したんだろうな。私の礫が三つほどめり込んで割れた面は、咄嗟に手を振り払うと呆気なく床に落ちて、完全に砕けた。

 まじまじとその破片を眺めてみたが、どう見てもただの面だ。
 
 それが喰いついてきた事に唖然としつつ、私は周囲を窺った。襲ってきた面は一つではなかったしな。


 そして硬直した。


 壁に掛っている面が――面の顔が、見知ったものへと変わっていたからだ。


 その、顔――……

 城の門番の顔。
 女中頭の顔。
 小姓の一人の顔。
 厩番の顔。
 ドクアジロガサ城の忍びの顔――

 ――全て、その日私が変装用にと顔に重ねていた貌だった。


 思わず己の顔に手をやると、作り物でない、肌の感触がした。仰天したよ。

 重ねた筈の貌がない――!

 変装用に重ねた作り物の貌が、全て、剥ぎ取られていたんだ。
 私は素顔になっていた。


『顔をとられた』


 その時、私は何故かそう思った。

 慄然としたのも束の間、城の下方が俄かに騒がしくなってきた。
 ――それはそうだ、そういう手筈で、そういう作戦を練ったんだ、この私が。
 私が早く目的のものを手に入れて離脱しないと、陽動役の奴が逃げられない。

 私はかつてない速さで目的のものを探し出すと――当り前だろうが、勤めを果たすのが忍びだぞ。やむを得ない場合を除いて非合理的で曖昧な戦果なんて報告できるか。お化けに襲われたので忍務失敗しましたじゃない、お化けが居ましたが忍務達成しましたと報告するべきなんだ。状況によるとは思うがな。
 まあとにかく課題の物を探し出した私はこんな場所にいられるかと全速力で部屋を飛び出した。
 あれ程必死に探し物をしたのは、どれくらいぶりだろうな。


 ――頭のすぐ後ろで、がちんと歯を噛み鳴らすような音がしてな。
 髷を引っ張られたが、知っての通り私の髷は鬘だ。

 スッポンと抜ける感触と同時に、後ろに爆薬をぶん投げた。

 あれだ、兵助に貰った、立花先輩お墨付きの新型火薬。
 やかましい、あの時は私だってヤケクソだったんだ。こんな化物の棲む城なんぞ燃してしまえと本気で思ってしまったんだ仕方ないだろうが。



 ――とまあ、実際結果として私は城を盛大にキャンプファイヤーしてしまい、先生には大目玉をくらい、補習となった訳だな。
 進級も危うくなりかけたとか聞いたような気もするが私に後悔はないぞ。あんな城燃えてしまえ。


 うるさいうるさいうるさい。大体あの面ども、何十とあったんだぞ。
 まだ貌を欲しがってる面はあったかもしれないだろう。素顔までとられてたらどうなってた事やら。天守閣に貌の無い死体が転がる事になってたかもしれんな。

 ――忍びとしては完全に失格だろうが、私は、あの城を燃した事については、本当に後悔はしていない。
 あの時、お前らの貌をつけてなくて本当に良かったよ。

 ……おい何だその顔。
 特に勘とハチ。やめろ何だか妙に腹立たしい。
 くっそ言わなければよかった!その顔をやめろというのに!くっそ!お前らうるさいんだよ顔が!!腹立つ、心っ底腹が立つ!!ええいこうしてやる!






同輩のコメント



竹谷:
 お前あの、お前が珍しく死に物狂いで逃げだしてきたあの城か!?
 静かに脱出してくる予定だったのに焙烙火矢なんて使うから俺ら何が起きたんだってまじ驚いたんだぜ!?なのにお前「何もない」としか言わねえし!
 言えよ!そしたらいつだって助けてやるっての!

 ったく……それ先生にいっときゃ補習になんなかったかもしんねえじゃん。
 ろ組の天才がどうした、補習とかだっせえーとか別クラスのヤツに馬鹿にされたんだぜ?
 お前は滅多な事じゃあ失敗しねえんだから、たまあに失敗した時くらい頼れよ。


尾浜:
 へええ、鉢屋にしちゃめっずらしい失態だなあと思ったら、へええ。
 むっずかしい顔してるからどんな厄介事かと思ったら、オバケかあー。まーでも燃してやったんならダイジョブじゃね?

 鉢屋ってバケモノじみてるとか陰口言うヤツいるけど、案外ちゃんと人間してるよねえ。どこがバケモノなんだか。こないだなんか庄ちゃんに説教されて本気で拗ねて……いって!なんだよぉホントの事じゃーん?また庄ちゃんにチクってやろっと、あっはは!拗ねてるー!ってて、いってちょっとタンマタンマ!
 あ~あ、ホントどこがバケモノなんだかねぇ。
 
 ねぇはっちゃん?
 その馬鹿にした奴ってさあ、もしかしてウチの組だったりするぅ?
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