「―――な」
長屋の廊下を歩いていたんだが、急に後ろから声をかけられてな。
振り向いたら、五年の……なんだっけ?竹……はち……虫取り網持ってよく学園を駆け回ってるやつだ。
あの結構がたいのいい、あいつだ。そのうち組手してみたいな。
ん?たけや?はちざえもん?あーそうそう、そんな感じの名だった。
そいつが、私の顔を見て、頭を見て、なんていうか微妙な顔をしていてな。
「ん?どうした?」
簡潔に言え!と言ったら、何度か口をもごもごさせて、
「頭に花が咲いてます」
うん?もちろんシメたぞ!いけどんアタックでな!
まあそう怒るないさっくん。私だってまさか本当に花が咲いているとは思わなかったからな!
喧嘩売られてるのかと思って瞬殺しただけだ!
不幸な事故だな!
ん、なんだちょーじ?落ち着けって?私はいつでも落ち着いているぞ!
なんだもんじ「お前はいつでもイケドンしてるだろ」って?いけどんに落ち着いているぞ!
ああ、続きな。
次は鉢屋と尾浜に通りすがりで爆笑されてな。
もちろんシメたぞ!
あっそうだ留くん、ごめん障子壊した。ハハハ怒るな!不幸な事故だ!
一緒にいた一年にはちゃんと手を出さなかったぞ!
だけどなあ、あれ、鉢屋と尾浜の委員会の後輩だと思うんだが。
先輩が爆笑してても真顔で、先輩がこてんぱんにされててもえらく冷静に
「先輩方がご迷惑をおかけしました。ですが今後の委員会活動に差し支えますので、その辺でどうか許していただけますでしょうか」
って……
ん?は組の学級委員長?は組って、あの一年は組か?
へえ~、そうか、どおりでなあ。
あのは組を纏めてるんじゃあ、あの程度じゃ動揺もしないというわけか。あの年で色々大変そうな一年だな!
うん、それでな、そのえらく冷静な一年が、「髪に花がついていらっしゃいますよ」って言うんだ。
「どの辺だ?」
「てっぺんです」
触ってみると、確かに頭のてっぺんに花がある。
というより、頭に刺さってるか生えてるかしてるようでな。
でもまさか本当に生えているわけがないから、思い切り引っこ抜いたんだ。
そしたら背骨が引っこ抜かれたみたいな、なんだろうなあ。とにかくなんかごっそり持っていかれたような感覚がして、気が付いたら医務室で寝てたというわけだ!
不思議だな!
ああ、いさっくんに聞いた。
鉢屋が血相変えて飛び込んで来て、授業中のいさっくんを拉致してったってな!ぎゃはは!いさっくんいくらなんでも五年に拉致られるなよ!鍛錬が足りないぞ!
――え?ああ、まあなあ。鉢屋の話を嘘だと思い込んでたら私は今生きてないしなあ。そうだな、笑ってすまん!
あ、それと、尾浜がその場で活を入れて蘇生法してくれなきゃやばかったって聞いた。
わかってる、そのうちあの二人には饅頭とかうどんとか奢ってやらないとな!
そういや、あの引っこ抜いた花だけどな。どっかに消えてしまって、誰に聞いても見てないというんだ。
せっかくだから一度見ておきたかったんだがなぁ。
お前ら、知らないか?
後輩のコメント
鉢屋:
勘弁していただきたい。
突然ぶっ倒れたと思ったら息してないし心の臓も停まってるし、庄ちゃんは半泣きだし彦ちゃんはヤバい感じのパニックになりかけるし。
私の可愛い可愛い後輩の目の前で変死とか本当やめていただきたい。
……肝が冷えました。
尾浜:
ほんと仰天しましたよ。戦死ならともかく七松先輩が変死とか、TPOってもんを弁えてくださいよ。ちなみに花は七松先輩の手の中で消えました。
あと先輩胸板硬すぎです、どんな鍛え方してんですか。活が入んなくて、踵落としで活入れましたからね俺。
あと割と大勢の後輩の前で蘇生法やっちゃったんでなんかあらぬ噂立てられてますけど、七松先輩からもキッパリ誤解だって言っといてくださいね!
……二度と御免です。