ぼくはね、夏休みにちょっと不思議な体験してきたんだぁ。
ぼく、長期休みは毎回実家に帰るの。
それでね、実家に帰ったら、パパが色んなお土産とかお菓子を用意してくれててね。
ぼく夢中でお菓子食べまくっちゃったぁ~。
食べ過ぎてちょっとカメ子に怒られちゃったんだけどね、えへへ。
お菓子以外にも、色々面白いものがあったんだけど、一番大きいのが蚊帳だったの。
ちょっと変わった織してる蚊帳でね、藍で流水紋が染められてたよ。
もちろん使ってみました!
うん、そのね、蚊帳の中で不思議なもの見たの。
最初はねぇ、月明かりの障子に、魚の泳ぐ影を見たの。すいっ、すいって生き生きと泳ぐの。
蚊帳の越しに見てたから、流水紋の中を泳いでるみたいだった~。
――ううん、ぼくんちの周りには、川なんてないよ。池もないの。ちょうどね、庭の造り直ししてたから。お池の鯉は少し離れた川の、生簀にいるの。
だからぼく、あの魚の影は夢だったのかなあって思ったもん。
その次は、それから二日後の晩だったかなあ。
また魚の影が見えて、一体何なのか、
「正体を見てやるっ!」
て叫んで、蚊帳から飛び出したの。
そしたらね、さっきまであんなにハッキリ見えてた魚の影が、なくなってたの。
部屋を調べても、外を覗いても何もないし。
「わけがわからないよう」
って言いながら、蚊帳の中に敷いてある布団に戻ったんだけど。
それから障子の方を見たら、またあの魚の影が、すいっ、て。
今度こそ捕まえてやるぅ!って思って――あ、そうだね、影は捕まえられないねえ。気付かなかったあ、乱太郎すごいねえ。
ウン、捕まえてやるって蚊帳をめくったら、消えちゃった。
その時は夜遅かったから、また今度でいいやって、寝ちゃったの。布団で寝転がって眺めたら、また魚が何匹も障子を泳いでいくのが見えたよ。
綺麗だったなあ。
何回かそういうことがあって、その魚は蚊帳の中からしか見えないんだってわかったの。
色んな魚がいるんだよ。ぼくの手より小さい魚がたくさん泳いでることもあったし、細長い魚とか、まんまるい魚もいたよ。金魚みたいな形してるのもいたし、ぼくと同じくらい大きな魚もいたなあ。
パパにその話をしたら、
「海に繋がっているんだね」って言ってた。
「海に?どうして?」
「しんべエくらい大きな魚は、大体は海にいるからね」
パパすごい!って飛びついたら、笑ってたけど腰痛めちゃったみたい。悪い事しちゃったなぁ……。
あ、きり丸おかえり~。
え、蚊帳がどこから来たって?うん、パパの知り合いの職人さんが作ったものらしいんだけど、その時にもちょっと不思議なことがあったんだって。
あ……えと、ごめんね。何があったのかは聞かなかったの……。パパとね、どの魚がどれだけ美味しいのかって話に熱中しちゃって……ごめんね。
うん、いいよ!次の休みはうちにおいでよ!みんなで蚊帳で寝よ?
一番大きい魚?
う~んと、うん、たまにすっごく大きい魚が映るよ。障子からはみ出しちゃうくらい大きいんだ!
あん、うん、この間第三協栄丸さんに聞いてみたんだけどね。
――あれ、クジラじゃないかなあ。