夢だって思って聞いてくれて構わないよ。
ぼくもちょっと変なこと言ってるなあって分かっているし。
ぼくね、前世は猫だったらしいんだ。
記憶があるんだよ。猫として暮らしてた記憶。
見た事がない町の中の、小さな抜け道とか住んでる人たちとか。前より思い出せなくなってきているけど、結構覚えてるんだ。
ぼくもね、小さい頃は夢だって思っていたんだ。
でもある時、じいちゃんと一緒にちょっと遠くの町におつかいしたことあってね。
その町が、ぼくが猫として暮らしてた町だったんだ。
びっくりしたよ。夢だと思ってた町が、丸ごとそっくりそこにあるんだもん。
猫のぼくを可愛がってくれた人、よく日向ぼっこしてたお堂、猫だけが知ってる抜け道。みんな記憶の通りだった。
でもね、不思議なんだ。
ぼくが人として生まれて、十年近く経ってる。ていうことは、ぼくの記憶の中の人たちも十年歳とってなきゃおかしいでしょ?
でも、どう見てもその人たちは十年も経ったように見えないんだ。
ぼくが猫だったころ塒にしてたお堂の、近所に住んでたお美代ちゃんは小さな子だった。けど、今でも小さな子供のままだった。なんと、今のぼくより年下だったんだ。
よくご飯の余りものをくれた小間物屋の娘さんは婿取りしてて、子供が三人も居た。だけど皆小さくて、一番年長の子でも四つって言ってた。
おかしいなあ、って思ったよ。
どうして、お美代ちゃんが生まれた後に死んで生まれ変わった筈のぼくが、お美代ちゃんより年上なんだろ?
悩んでたら、よく一緒に日向ぼっこしてたご隠居を見つけてさ。
子供好きだったから、知らない子供でも話してくれると思って、色々聞いてみたんだ。
ぼくはご隠居の色んな事を知ってたから、今更知らないふりをするのはちょっと大変だったなあ。忍者としての修行が足りないね。
「おぉ、何年か前まで真っ白な猫が居ったよ。こんな隠居ジジイに付きおうてくれる、ちいとばかし変な猫じゃった。しかし頭が良くてのう、猫らの親分のようじゃった。わしは友人のように思っておったよ」
ちょっと照れちゃうね。ぼくもご隠居は大好きだったよ。
ご隠居の話から、ぼくだと思われる白い猫は五、六年前まで居たみたいだ。
猫が死んだのは五、六年前。
だけど、ぼくが生まれたのは十年前。
その猫がぼくだったっていうのは疑いようがないんだ。道すがら確認したけど、真っ白い毛並みで、青い目の猫は珍しかったみたいだから、町の人はよく覚えてた。
えっと……ちょっと恥ずかしいんだけどね、ぼくその頃町内のアイドルみたいになってたんだよ。珍しい外見してたから、捕まえて売り飛ばそうって人が多くてね。でも、そういう人たちを全部撃退してたんだけど、大抵近所の鼻つまみ者だったからさ、痛快だったみたい。
……ちょっと今のところは他の人には秘密にしておいてね。若気の至りっていうか……うん、まあ、ぼく十歳なんだけどね。
でも、不思議だなあ。
生まれ変わりって、年月を遡ることもあるのかなぁ?
あ、そうそう、猫の集会って知ってる?
あの場所もね、変わってなくて、懐かしい顔に会ったよ。
うん。猫のころの、ぼくの子供。すっかり大人になってて、父としてちょっと感慨深かったなあ。
……うん、お嫁さんも居たよ。猫の。
猫のぼくはちょっと変わってたみたいでね、一匹しかお嫁さんいなかったんだ。綺麗なキツネ色の毛並みの靴下猫だよ。
え?やだなあ彦四郎。
猫の頃は変わり者だったかもしれないけど、今は普通だよ?
その元お嫁さん猫に気に入られちゃったみたいでね。
まさか、ぼくが元旦那さん猫って気付いてるワケじゃない……とは思う……んだけど。
家までついてきちゃったんだ、元お嫁さん猫。
ぼくにだけ懐いてて……庄二郎には時々かまってるみたいなんだけどね。
まさかとは思ったんだけど、一応ね。
「猫と人は結婚できないんだよ。君も早く次の良い旦那さん見つけてね」って言ったんだけど。
うん、気のせいならいいんだ。いいんだけど……。
この間実家から手紙が届いてね。
内容は近況報告と、庄二郎のこと、それとその元お嫁さん猫の事が書かれてた。
元お嫁さん猫の尻尾が、二本になったんだって。
じいちゃんは面白いって喜んでるみたい。
……ねえ、これ冗談だと思う?
同輩のコメント
今福:
実家の猫が怖いなんて言うから庄左エ門らしくないなあとは思ったけど、正直信じがたい話だよな。
ただ、さ。
ちょっと気になって、図書室で調べたり、図書委員の先輩に聞いたりしてみたんだ。
そしたら、猫と結婚する話はなかった。
……けど、妖怪と結婚する話は、結構あったんだ……。
これ、庄左エ門に言っといた方がいいのかなあ……。