嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2017/10/03 [20:03:54] (Tue)
こらお前ら、何やって……怪談話か?物好きだな……。
ないわけじゃないが。私の話で終いにするなら構わんぞ。
えーじゃない、全く……。
ふむ、そうだな……ある忍務の時だ。
敵方の忍びを追って、山中に分け入った。
あまり上手くない忍びだったな。事をしくじって我らに見つかり、そのまま逃亡したんだ。
足ばかりは早い男で、3人がかりで追っていたところ、そ奴はよく知った山に逃げ込んだ。
地の利はこちらにあり、と他の二人をばらけさせ道を塞がせた。
その上で、私一人で其奴を追った。
その山には墓場があり、麓の村人が代々管理していると聞いていた。
山で迷わぬよう、道道に赤い彼岸花を植えているとも。
……ああ、言い忘れていた。夜だ。
月の出ない、朔の日だ。そこばかりは、基本に忠実な曲者だったな。
基本に忠実なのは良い事だが、忍びたるもの状況に柔軟に対処できなければならない。
お前たち、わかってるな?
……本当にわかってるのか?ああ、うん、続きだな……
月がなくとも、その夜は雲がなかった。星が明るかったんだ。
藪の手前、道に沿って転々と咲く彼岸花は、星明りの中でも良い目印だった。
それを辿って男が逃げているのは丸分かりだった、なんせ夜の山中だ、それも朔の日の。
目を凝らさねば暗くて足元など見えやしない。
その中では、走りながら咄嗟に見えるぼんやりとした紅は、良い道しるべだったんだろうよ。
……追われる忍者としてはあまり上手い手とは言えないが。
その男は足が速かったが、しかしこちらはその山の事をよく知っていた。
墓に着く前に、男の背中が見えた。
追いついたーーまずは足を止めようと、その足元に向けて苦無を打った。
が、刺さる音がしない。
しくじったかと二度、三度と得物を投げ打ったが、手応えがない。
一度ならともかく、三度も打って手応えがないのはおかしい。
そこまで腕が落ちているならとてもとてもだ、タソガレドキの小頭なんてやっていられないだろう。一瞬、辞表届が脳裏を過ぎりすらした。
しかし妙な事に、苦無が地面に落ちる音すらもしなかった。
男の後ろを走っているのだから、落ちた苦無を拾い上げて……と考えるだろう?
だが、苦無は落ちていなかった。
この事から考えると、その曲者が苦無を弾き飛ばした、あるいは受け止めたか、と思うだろう、普通ならば。
しかしな、男は上体を上げて、走る事のみに注力しているようにしか見えず、私はずいぶんと惑っていたよ。
自分の目を疑いすらしたし、幻術か、あるいはとんでもない忍びの名手かとも思った。
やはり辞表を……とも思ったな。はあ、冗談だ、真に受けるな……。
だが、ふと、違和感に気付いたんだ。
道道に点々と、彼岸花が咲いていると言っただろう。
麓の村人が植えたんだろうが、しかし、それらは割と適当に植えられていてな。やたら密集している場所もあればやたらまばらなところもあって、まあ、それほどきれいに並んでいるわけではなかったんだ。
だが、さきほどから、横を過ぎ去る彼岸花がーー妙に規則正しく、均等に植えられているな、と思ったんだ。
その山はよく知っていた場所だった。
彼岸花に彩られた道も、何度か通った事がある。最初から、最後まで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ーーこんなにきれいに揃って花が咲く場所なんて、あったか?
ふだん忍務で感じるのとは別の寒気が、した。
思わず足を止めて、ーー男は走り続けていた。変わらず。
だが足を止めたわたしと男の距離は、変わっていなかった。
ーー男は、同じ場所でずっと走り続けていたんだ。
ふと己の足元を見ると、地面がえぐれていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
わたしも、同じ場所をずっと走っていたのだ。
ーーそうわかって、ぞっとしたな。さすがに。
幻術の可能性も捨て切れなかった、気付けに舌を軽く噛んで退くことを選んだが、男の足音が遠ざかっていくことに、安心したものだ。
二の手を打っていたとはいえ、曲者を逃して安堵を覚えるなど、忍び失格だな。
……まだ何も言っとらんだろうが。辞表は冗談だと言ったろうに。
一度だけ振り返った。
恐ろしく均等に咲いた彼岸花が、黒い森の中異様に紅く、鮮やかに浮き上がって見えた。
うつくしいが、まるで黄泉路だと、そう思ったものだ。
朝ぼらけのころ、散らせていた部下を呼び戻して山狩りを行った。
男は墓地に入る手前の道で見つかった。同じ場所で延々と、走るように足踏みをしていた。
その足元には、苦無が3本刺さっていた。
男は気が触れていたよ。
部下のコメント
諸泉尊奈門:
くみがしらああああああ!!!やまも……小頭が辞表出してきてもさっくり受理とかしないでくださいね!ほんとに!本当ですよ!
ちゃんと何か悩みがあるのかとか聞いてくださいね!!本当ですよ!約束しましたからね!
いやだって小頭には世話になってない人の方が少なく……そうだ!!あとリフレッシュ休暇とかあるといいと思います小頭の眉間のシワが増える前に!
そうですよ!小頭だってストレス溜まってるはずです!組頭だってこないだ怒られてたじゃないですか!組頭だって小頭のストレスの原因のひとつなんです、ちょっと休暇というか、少し休んでもらってもバチは当たらないと……あっ……小頭……これは……その……っ!
上司のコメント
雑渡:
あ〜ハイハイ尊これあげるから黙ってなさい。あとお前たち解散。
今まさに小頭の眉間のしわが深くなってるからね。
ハイ、お疲れさん。
……しかし、退けば場から逃げられたのは幸運だったねえ。
逃げようとして走っているつもりで、またその場でえんえんと足踏みしていた可能性もあったわけだろう?
『彼岸の名を冠す花を目印に死人の場所への道を行った』なぁんていうのが、繋がってしまった原因かね。
なんにせよ、ウチの優秀な、部下にもよぉく慕われる幹部を失わずに済んで良かったよ、ねえ山本?
こらお前ら、何やって……怪談話か?物好きだな……。
ないわけじゃないが。私の話で終いにするなら構わんぞ。
えーじゃない、全く……。
ふむ、そうだな……ある忍務の時だ。
敵方の忍びを追って、山中に分け入った。
あまり上手くない忍びだったな。事をしくじって我らに見つかり、そのまま逃亡したんだ。
足ばかりは早い男で、3人がかりで追っていたところ、そ奴はよく知った山に逃げ込んだ。
地の利はこちらにあり、と他の二人をばらけさせ道を塞がせた。
その上で、私一人で其奴を追った。
その山には墓場があり、麓の村人が代々管理していると聞いていた。
山で迷わぬよう、道道に赤い彼岸花を植えているとも。
……ああ、言い忘れていた。夜だ。
月の出ない、朔の日だ。そこばかりは、基本に忠実な曲者だったな。
基本に忠実なのは良い事だが、忍びたるもの状況に柔軟に対処できなければならない。
お前たち、わかってるな?
……本当にわかってるのか?ああ、うん、続きだな……
月がなくとも、その夜は雲がなかった。星が明るかったんだ。
藪の手前、道に沿って転々と咲く彼岸花は、星明りの中でも良い目印だった。
それを辿って男が逃げているのは丸分かりだった、なんせ夜の山中だ、それも朔の日の。
目を凝らさねば暗くて足元など見えやしない。
その中では、走りながら咄嗟に見えるぼんやりとした紅は、良い道しるべだったんだろうよ。
……追われる忍者としてはあまり上手い手とは言えないが。
その男は足が速かったが、しかしこちらはその山の事をよく知っていた。
墓に着く前に、男の背中が見えた。
追いついたーーまずは足を止めようと、その足元に向けて苦無を打った。
が、刺さる音がしない。
しくじったかと二度、三度と得物を投げ打ったが、手応えがない。
一度ならともかく、三度も打って手応えがないのはおかしい。
そこまで腕が落ちているならとてもとてもだ、タソガレドキの小頭なんてやっていられないだろう。一瞬、辞表届が脳裏を過ぎりすらした。
しかし妙な事に、苦無が地面に落ちる音すらもしなかった。
男の後ろを走っているのだから、落ちた苦無を拾い上げて……と考えるだろう?
だが、苦無は落ちていなかった。
この事から考えると、その曲者が苦無を弾き飛ばした、あるいは受け止めたか、と思うだろう、普通ならば。
しかしな、男は上体を上げて、走る事のみに注力しているようにしか見えず、私はずいぶんと惑っていたよ。
自分の目を疑いすらしたし、幻術か、あるいはとんでもない忍びの名手かとも思った。
やはり辞表を……とも思ったな。はあ、冗談だ、真に受けるな……。
だが、ふと、違和感に気付いたんだ。
道道に点々と、彼岸花が咲いていると言っただろう。
麓の村人が植えたんだろうが、しかし、それらは割と適当に植えられていてな。やたら密集している場所もあればやたらまばらなところもあって、まあ、それほどきれいに並んでいるわけではなかったんだ。
だが、さきほどから、横を過ぎ去る彼岸花がーー妙に規則正しく、均等に植えられているな、と思ったんだ。
その山はよく知っていた場所だった。
彼岸花に彩られた道も、何度か通った事がある。最初から、最後まで。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ーーこんなにきれいに揃って花が咲く場所なんて、あったか?
ふだん忍務で感じるのとは別の寒気が、した。
思わず足を止めて、ーー男は走り続けていた。変わらず。
だが足を止めたわたしと男の距離は、変わっていなかった。
ーー男は、同じ場所でずっと走り続けていたんだ。
ふと己の足元を見ると、地面がえぐれていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
わたしも、同じ場所をずっと走っていたのだ。
ーーそうわかって、ぞっとしたな。さすがに。
幻術の可能性も捨て切れなかった、気付けに舌を軽く噛んで退くことを選んだが、男の足音が遠ざかっていくことに、安心したものだ。
二の手を打っていたとはいえ、曲者を逃して安堵を覚えるなど、忍び失格だな。
……まだ何も言っとらんだろうが。辞表は冗談だと言ったろうに。
一度だけ振り返った。
恐ろしく均等に咲いた彼岸花が、黒い森の中異様に紅く、鮮やかに浮き上がって見えた。
うつくしいが、まるで黄泉路だと、そう思ったものだ。
朝ぼらけのころ、散らせていた部下を呼び戻して山狩りを行った。
男は墓地に入る手前の道で見つかった。同じ場所で延々と、走るように足踏みをしていた。
その足元には、苦無が3本刺さっていた。
男は気が触れていたよ。
部下のコメント
諸泉尊奈門:
くみがしらああああああ!!!やまも……小頭が辞表出してきてもさっくり受理とかしないでくださいね!ほんとに!本当ですよ!
ちゃんと何か悩みがあるのかとか聞いてくださいね!!本当ですよ!約束しましたからね!
いやだって小頭には世話になってない人の方が少なく……そうだ!!あとリフレッシュ休暇とかあるといいと思います小頭の眉間のシワが増える前に!
そうですよ!小頭だってストレス溜まってるはずです!組頭だってこないだ怒られてたじゃないですか!組頭だって小頭のストレスの原因のひとつなんです、ちょっと休暇というか、少し休んでもらってもバチは当たらないと……あっ……小頭……これは……その……っ!
上司のコメント
雑渡:
あ〜ハイハイ尊これあげるから黙ってなさい。あとお前たち解散。
今まさに小頭の眉間のしわが深くなってるからね。
ハイ、お疲れさん。
……しかし、退けば場から逃げられたのは幸運だったねえ。
逃げようとして走っているつもりで、またその場でえんえんと足踏みしていた可能性もあったわけだろう?
『彼岸の名を冠す花を目印に死人の場所への道を行った』なぁんていうのが、繋がってしまった原因かね。
なんにせよ、ウチの優秀な、部下にもよぉく慕われる幹部を失わずに済んで良かったよ、ねえ山本?
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