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嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2025/07/05 [22:22:16] (Sat)
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2013/06/19 [00:54:23] (Wed)
潮江文次郎

拍手[14回]

桜?この辺の山に、花見に行ける桜は生えとらんぞ。

……その話か。あまり思い出したくねえんだがな。

いいか。話してもいいが、見に行こうなどとは考えるな。

同室?……あぁ、お前の同室は平だったな。そうか、体育委員なら関わる事もあるかも知れんな。

 

当時、っても一年少し前だが……先生方は人喰い桜の噂にこそ言及しなかったが、学園の敷地内での山桜の花見は禁じられていた。

しかしまあ、禁止されると余計に挑みたくなるバカタレ共ばかりだったわけだな、当時の俺たちは。

四年になって一皮剥けたばかりの連中――ろ組の鉢屋に竹谷、い組の尾浜あたりも桜の噂を気にしていたらしくてな。四年だけで何かやらかすよりは良かろうと仙蔵が連行を提案した。

それを聞いた小平太が「よし!任せろ!」と叫んですっ飛んで行って大量に捕獲した。

結局は、確か……鉢屋と竹谷、尾浜に、近くに居て巻き込まれたらしい不破と久々知、というメンバーだったか。

俺たちの学年では小平太、長次、俺と仙蔵というメンバーだった。

――は組はどうしたのかだと?

 

お前もい組ならなんとなく分かるだろうが、「アホのは組」はある意味伝統だ。

奴らは伊作の不運に起因する悪ふざけの結果、クラス全員が補習くらってやがった。一年の時からぜんっぜん変わりゃしねえ。

……実習での臨機応変さと肝の座り具合じゃあズバ抜けてるってのに、どうしてああも阿呆ばっかりなんだ、は組の奴らは?

 

話が逸れたな。

当時も体育委員で、学園の敷地を一番駆けずり回っていた小平太が、桜の場所を知っていた。

重箱やら酒やら……そして、その時は万が一もねえだろうとタカをくくっていたんだが……それでも忍具の一つや二つは仕込んで、学園を抜け出した。

 

着いた先には、それは見事な満開の桜が鎮座していた。

おっそろしく巨大でな、最早樹齢何百年なのかも予測がつかん。もしかしたら千を超えていたかもしれんな。とにかくとんでもねえでかぶつで、地面以外の全てがほとんど花だと言っても過言じゃねえ。視界一面が桜だったんだ。

後で聞いたんだが、長次なんかはこれが話に聞く桃源郷というものか、と思ったそうだ。

あまりの光景に、うっかり全員して見蕩れちまってな。全く、鍛錬が足らん……。

だが、日頃から平静たれと己を鍛えている俺たちですらこうなんだ、何も知らずに来た連中なんぞには、そのまま見入られちまう輩も居ただろうな。

 

……まあ、花より食い気の連中の腹の虫がやかましくて、風流な時に浸れたのは短かったがな。

 

食堂のおばちゃんの作ってくれた重箱をあっという間に平らげた小平太が、酒を持って桜に登った。興奮した声ですごいすごいと連呼するもんだから、どれほどのもんかと興が乗ってな。長次と顔を見合わせて桜に登ったんだが……。

 

――まるで別世界だった。

何処を見ても桜しか見えん。一面が淡い薄紅で、枝が幾重にも折り重なり積み重なり、ずっと遠くまで続いていた。

僅かな濃淡と枝振りが砕け散る波涛のようで、まるで桜の海だ。

ほろほろと音もなく花びらが降り注いで、まるで現世のものとは思えん程だ。……極楽とはこういう景色なのかとすら思ったもんだ……。

声もなく見蕩れていると、下方から尾浜と仙蔵の声がした。

 

何やら様子がおかしい、という。

 

小平太と長次に目配せして降りようかと思ったんだが、――長次が厳しい顔で周囲を見回していた。

小平太も笑みを消して、下方をじっと見下ろしている。

そこでようやく俺も奇妙な事に気が付いた。

 

それほど高くに登った覚えはないというのに、咲き誇る桜に埋め尽くされて、地面が全く見えん。

下の枝に飛び降りようにも、花に隠されて何がどこにあるのか全く見えん、といった有様でな。

幹伝いに降りようにも、枝を伝って行くと何故か必ず上に登る枝に辿り着く。

 

「……文次郎」

仙蔵が異常を悟ってか声を低めたのが聞こえた。

「待て。……小平太」

目を皿のようにして下界を見据えていた小平太が首を振る。

「ざっと見たが、降りられそうな枝はないな!というか花しか見えん!長次は?」

小平太の視線を受けて、長次が縄標をするすると落とした。

これは、例えば何の灯りもない高所から飛び降りねばならぬ場合、落下の衝撃に備える為、地面からのおおよその距離を計る方法の一つだ。夜間実習が多くなるとたまに必要になるぞ。覚えておけよ。

縄標の先端はすぐに花に埋もれて見えなくなり――

 

「なっ」

 

上から縄標が降りてきた。

 

そう奇妙な顔をするな。俺にだって訳が分からん。

長次が下に降ろした縄標が、頭の上から降りてきた。

長次が縄標を引くと、俺たちの頭の上の縄標も揺れて上に上がって行く。しげしげとそれを眺めた長次が、首を捻って「……私の縄標だ」と言った。

状況を理解しかねたらしい小平太が盃を下に落としてみると、当然の事のように上から盃が降ってきた。

誰も受け取らなかったんで盃は枝の下に落ちて、そしてまた上から降ってきた。

落ちてきた盃は枝にぶつかって軽い音を立てて転がり、下に落ちて――見えなくなった、と思った瞬間また上から降ってきた。

……どうなってるのか全くワケが分からん。

正しく化かされたって奴なんだろうが……妖しの類いのする事ってのは本当に、何がしたいのか皆目分からねえ。

とりあえず下に飛び降りるのは良策じゃねえってことは分かった。

 

「仙。下に降りる枝がない」

「何だと?……幻術ではないのか」

「わからん。飛び降りようにも、下が全く見えん。距離も計れん。化かされてるようだ」

「なんかな、変な気配がするぞ。何か居るな!」

「…………人喰い、桜か」

 

どうやって降りるかと思っていると、久々知の声がして、下の気配が一気に緊迫した。

「状況が変わった、飛び降りろ。長居は出来ん」

仙蔵の鋭い声音に、咄嗟に俺は根本付近の地面を思い返した。

「……でかい岩がごろごろしてたな」

「下手しなくても死ぬな!」

「…………しかし、躊躇している余裕は無さそうだ……」

 

仕方ないか、と腰を浮かせたところに、鉢屋の焦った声が聞こえた。

 

「――急がないと帰る道もなくなるぞ」

 

あの鉢屋だ。

俺は焦った声など聞いたのも初めてだった。

……どうやら状況は極めてまずいらしい。

俺も小平太も長次も同学年の中では重量級だ、飛び降りて手負いになった俺たちを担いで逃げるだけの余裕が、あるかどうか。

鉢屋たちを先に逃がした方が良いか――その考えが頭を掠めた時、小平太がのんきそうに首を傾げて言った。

 

 

「うーん、なあ?この桜、切り倒しちゃダメなのか?」

 

 

――小平太の勢いは凄まじかった。

 

ものの数分で一抱え以上もある太い枝に大穴を開け、あっという間に何本もの枝を落としていく。なにしろでかい桜だ、どでかい枝が落ちるたびに下敷きになりかけた鉢屋達の悲鳴が聞こえたが、小平太はむしろ楽しそうだったな。

時折聞こえる轟音に震える枝、鉢屋達の気合で、下からの伐採も進んでいるのは感じられた。

 

……感じられたのはいいんだが、その気合の内容が何とも気の抜けるような事ばかり叫んでいてな、俺は怒鳴りたくなるのを堪えて苦無を振るっていた。

いや、後輩の声には我慢していたんだが、仙蔵の叫ぶ内容には突っ込まざるを得んかった。

 

「仙蔵きさま、次の予算会議でそれが通用すると思うな!」

「ふふん莫迦めが。先ほどの計画が全てだと思うか」

「何っ……!?」

「…………文次郎、仙蔵、真面目に」

「すまんな長次。ついな」

「俺は真面目にやっとるわ!」

「なんだお前達なんか楽しそうだな!あとで私も混ぜろ!」

「…………小平太、真面目に」

「わかってるぞちょーじ!いけいけどんどーん!!」

 

小平太は恐らく幹だと思しき岩壁……のような巨大な木塊に挑み、めりめりと容赦なく皮を引き剥がしていた。木肌は桜貝のような白無垢だったが、小平太が苦無を突き刺すと赤黒い樹液が飛び散って、まるで血のようだと思ったもんだ。

 

気味が悪かったのはそれだけじゃねえ。

どこからか骨だけの手が大量に伸びてきて、まるで撫でるように体に絡みついてきた。どこか女っぽい手つきだったのが余計にぞっとしたな。

 

「ははは!桜も必死だな!」

 

小平太が顔面を赤黒く染めながらさも愉快そうに笑ってたがな、全くもって笑い事じゃねえ。

俺と長次はそれぞれに得物を構えて、かしゃかしゃかちかち言いながら迫ってくる骨の手を振り払った。

手の一本一本は強く叩けばすぐ分解する程度の脆さだったんだが、なにしろ数が多くてな。

体術の苦手な奴だったら、……あるいは下級生だったら……容易く押さえ込まれていただろう。

長次と俺が骨を振り払い叩き折り殴り砕きしている間、小平太はいかにも物騒に笑いながら幹をぶち抜いていった。

流石に塹壕を掘る時のようなスピードは出なかったが、なにせあの馬鹿力だ。速度だけで言えば熟練した木こりより早かったんじゃねえか?

骨の手は徐々に増えて段々と捌けなくなってきていた。正直なところ、塹壕掘りに長けた小平太がいなければ危なかっただろう。

 

「小平太っまだか!」

「もーちょい!」

 

小平太が一際でかい雄叫びを上げて、同時に幹が大きく揺れた。

 

途端だ。

群がってきていた骨が一斉に解け、桜の花弁に成って消えた。

 

ミキミキビキィッ、という耳を劈くような樹の悲鳴が上がって、俺と長次は耳を塞ぎながら揺れる木の上で耐えた。

同じく幹にしがみつきながら、小平太が成し遂げた顔で声を張り上げた。

「仙ちゃーん!」

「どうした!」

 

 

「たーおれーるぞおー!」

 

 

煩い程の花のざわめきと轟音の間に、仙蔵の悪態が聞こえた気がした。

 

 

「……あいつら、無事か……?」

桜が倒れる様はそれは壮観だった。

あそこまででかいと、倒れていても気圧されるもんだな。

地面はえぐれ、幹からはだくだくと樹液が流れ落ち、骨や枝が散乱し、樹液まみれで真っ赤に汚れた仙蔵達が呆然とこっちを見上げていた。

 

あー……そのだな。

……どうやら幹の下敷きになるところだったらしい……。

 

下に居た全員が、必死に逃げた感のある体勢で固まっていた。

それに気付いた長次が、ガッツポーズをする小平太をしばき倒して幹から落としていた。

……まあ、結構な惨状だったな。色んな意味で。

 

ばらばらと花びらが散っていく中で、骨がカシャンカシャンと小さな音を立てて崩れていく。

桜吹雪が止み周囲が見えるようになってきて、俺たちは早急にその場から離脱した。

そもそも妖怪退治の仕方なぞ分からねえ。

 

しかし、仙蔵達もわりと厳しい状況だったのは見て分かったんだが……。

あの状況下を、あんな緊張感の欠片も無い気合で乗り切るって言うのも、ある意味大物かもしれんな。

……真似はしねえが。

 

 

 

 

 

先輩のコメント

 

竹谷:

んー?……ああー、あーあれか。暴君七松伝説人喰櫻編だろ?

あ?命名は三郎だけど。先輩、伝説たくさんあっからなぁ。

しっかし俺、妖怪退治的な事やったの初めてだったわ。すげぇな、妖怪って力技でどうにかなるモンなんだなあ。

ただなー、動くコーちゃんは怖かったし、帰れなくなるかもってのも怖かったし、桜もキレイで怖かったけどなあ。

その後のよぉ……七松先輩が血まみれで笑いながら追っかけてくるっていうあの、ビジュアルがインパクト強すぎっつか、怖すぎてさぁ……桜の事に関しちゃ、怖かった印象があんまねえんだよな……。

あ、あと、樹上で先輩達が叩き折ったぶっとい枝がドカンドカン落ちてくるんで、避ける方が大変だったてえ位か?

 

俺、なんか七松先輩見てると、後輩に優しくしようって気持ちがすっげえ湧いてく……あ。

げっ目が合った……ちょ、なんか指パキポキ鳴らしてねえ?……やべっこの話はまた今度ぉああああああ!?

あっぶねええええ七松先輩何すっ!どあっ待っ!!

(~以下満面の笑みの七松小平太と鬼ごっこ開始~)

 

 

 

 

 

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