嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2016/12/10 [21:29:50] (Sat)
おーそうかそうか、お疲れさんだったなぁ伊作。
んーまあ、あんまり人に話すもんじゃねえとは思うんだが、きいてくれるか。
ーー忍務帰りで、学園に帰る途中での出来事だ。
日もとっぷり暮れちまって、普通なら野宿といくところだが、その日は満月でな。
お月さんの青い光がこうこうと道を照らして、まるで真っ昼間みてえな歩きやすさでよ。
もうあと一山越えれば学園近くの道に出るってんで、まあ大して疲れてなかったし、もうひと踏ん張りと休まずに歩いてたんだ。
昼とは別世界みてえにきれいな景色をもうちょい眺めたかったってのもあるけどよ。
川にさしかかったところで、またこの世とも思えねえ絶景に出くわしたんだ。
小さな滝が月光に照らされて青白く光って、飛沫がきらきらしててな……。
俺にももっと長次みてえな学があればなー、歌の一つでも思いついたかもしれねえや。
そんで蛍がーー、……ん?
……あ、いや、そういや夏でもねえのになんで蛍が飛んでたんだろうなって思って……。
それがよ、一匹二匹じゃねえんだ。
そこらじゅうでチカチカ光りながら、わた毛みたいにフワフワ飛んでた。
いやー、すげえキレーだったなー。お前にも見せたかったなあ。ほんとにキレイだったんだぜ。
そんでな、へえーっと感動しながらそれを眺めてたら、ちいと胡乱なモンも見つけちまってさ。
最初は、白い棒切れでも流れてきたんかと思ったさ。……だが、それにしちゃ、なんか、やたらとでけえ。
棒切れがもう一本見えて、それの生えてるもっと太い……幹?も見えて、倒木か?と思ってたらーー……その向こうに、ぼんやりと丸いもんが見えてきた。
丸??とか、流石になんだかわかんねえ。ゆっくりと流れてくるソレにじっと目を凝らして、それが何だかわかった時ーー急に寒くなったような心地がした。
丸いソレは顔だった。
流れてくるのは、人だ。
絶景に浸ってうっとりしてたトコにこれだ。言っても仕方ねえ事だが、もうちっと時を選んで欲しかったよな……。
まだ息があるかもしれねえ、そう考えて岸に近づいてまぁたぶったまげたぜ。
なんせ、そいつはよくよく知った顔をしてやがったんだ。
反射的に荷と服を投げ捨てて川に飛び込んだ。
信じられなかったぜ。
なんでこいつが、どうしてこんな事になってる?
川の水は身を切る冷たさだった。それよりも腹の底の方がぐっと冷え込んでたーーような気がしてた。
そいつのとこに泳ぎついてツラをしっかり見て、やっぱりあいつで間違いねえとわかった時、寒さだけでなく手が震えた。
氷を詰め込んだみてえに冷えてた腹の底が、カッと熱くなった気がした。
てめえこの野郎なにをこんなところで死んでいやがる。
あーまあ、今思うと逆ギレだな。完全に。
突然怒り心頭になった俺はそいつの首根っこ引っつかんで岸に引きずり上げた。
意識ねえ奴ってやったら重いよなあ、ただでさえあのヤロウ学年内じゃ重量級だってのによ。それもまたなぁんかムカついてなー、ほぼ力づくだった。
なんかの罠に嵌りでもしたのかそれとも捕まりかけたのか、ヤロウの片足には荒縄が括り付けられてて、そいつもぶっ千切って怒りのまま川にぶん投げた。
月光は冴え冴えと明るかったが、青い光に照らされたやつのツラは死人に見まがう白さだった。
本気で死んでんのかとちいとビビりながら確認したらちゃんと生きてたんで、驚かせんじゃねえこの石頭つって頭ぁ引っ叩いといた。
っても生きちゃあいたがかなり衰弱しててな。慌てて濡れた服を着替えさせて、学園への道を急いださ。学園に行きゃ風呂も布団も医者もいる、敵も獣もいるかもしれねえ山中よりゃ、多少時間がかかっても学園の方がいい。
背負った体は川で感じた重さはなんだったんだってくらい軽くてよ、でも濡れた真冬の布団みたいにじっとり冷たくて、なんか妙に焦ったなあ。
ーーところが、だ。
ようやく学園の門にたどり着いた俺に、小松田さんは言った。
「ふわぁ~おかえり食満くん~。あ、たしか伊作くんと同室だったよね?彼、文次郎くんの看病で保健室に泊まり込みだって」
は??
「何言ってんです、文次郎のヤロウはここに……」
気づいたら、背中の重みがない。
「文次郎くん昨日戻ってきたんだけど、なんだか怪我してたみたいでね~。食満くん、お見舞い行ってあげたら?」
じゃあ、俺が、ここまで背負ってきたのは?
ーーなんだったんだ。
軽くなった背は、じっとり濡れていた。
同室のコメント
伊作:
へえー、そんな事がねえ……文次郎の見舞いに来るなんて、ぼくはまた留さんまで熱出したのかって心配しちゃったよ。
文次郎も目を丸くしてたけど、いつもみたいな喧嘩腰じゃなかったねえ。喧嘩してたら留さんを保健室から放り出す事になってたからよかったけど。
文次郎?眠り薬嗅がせてオヤスミグンナイかな。
文次郎と留さんが揃ってて喧嘩しないなんてね~、仙蔵なんか明日は槍が降るのかって笑ってたよ?
あ、ねえ話は違うんだけどさ、忍たま長屋がまた雨漏りしてるんだ。
それがねえ、なんと!……僕たちのお部屋です!ははは……うん……またなんだ……。
うん、悪いけど修理お願いできないかなぁ。薬が湿気ちゃうしさ。
ちょうどコーちゃんの真上らしくて、コーちゃんがびしょぬれでさー、あの荒縄コーちゃんに持たせたの留さんでしょ?拭いといたけど、あれもビショビショになっちゃってたよ。
同輩のコメント
文次郎:
うるせえこの借りはいつか返す。
おーそうかそうか、お疲れさんだったなぁ伊作。
んーまあ、あんまり人に話すもんじゃねえとは思うんだが、きいてくれるか。
ーー忍務帰りで、学園に帰る途中での出来事だ。
日もとっぷり暮れちまって、普通なら野宿といくところだが、その日は満月でな。
お月さんの青い光がこうこうと道を照らして、まるで真っ昼間みてえな歩きやすさでよ。
もうあと一山越えれば学園近くの道に出るってんで、まあ大して疲れてなかったし、もうひと踏ん張りと休まずに歩いてたんだ。
昼とは別世界みてえにきれいな景色をもうちょい眺めたかったってのもあるけどよ。
川にさしかかったところで、またこの世とも思えねえ絶景に出くわしたんだ。
小さな滝が月光に照らされて青白く光って、飛沫がきらきらしててな……。
俺にももっと長次みてえな学があればなー、歌の一つでも思いついたかもしれねえや。
そんで蛍がーー、……ん?
……あ、いや、そういや夏でもねえのになんで蛍が飛んでたんだろうなって思って……。
それがよ、一匹二匹じゃねえんだ。
そこらじゅうでチカチカ光りながら、わた毛みたいにフワフワ飛んでた。
いやー、すげえキレーだったなー。お前にも見せたかったなあ。ほんとにキレイだったんだぜ。
そんでな、へえーっと感動しながらそれを眺めてたら、ちいと胡乱なモンも見つけちまってさ。
最初は、白い棒切れでも流れてきたんかと思ったさ。……だが、それにしちゃ、なんか、やたらとでけえ。
棒切れがもう一本見えて、それの生えてるもっと太い……幹?も見えて、倒木か?と思ってたらーー……その向こうに、ぼんやりと丸いもんが見えてきた。
丸??とか、流石になんだかわかんねえ。ゆっくりと流れてくるソレにじっと目を凝らして、それが何だかわかった時ーー急に寒くなったような心地がした。
丸いソレは顔だった。
流れてくるのは、人だ。
絶景に浸ってうっとりしてたトコにこれだ。言っても仕方ねえ事だが、もうちっと時を選んで欲しかったよな……。
まだ息があるかもしれねえ、そう考えて岸に近づいてまぁたぶったまげたぜ。
なんせ、そいつはよくよく知った顔をしてやがったんだ。
反射的に荷と服を投げ捨てて川に飛び込んだ。
信じられなかったぜ。
なんでこいつが、どうしてこんな事になってる?
川の水は身を切る冷たさだった。それよりも腹の底の方がぐっと冷え込んでたーーような気がしてた。
そいつのとこに泳ぎついてツラをしっかり見て、やっぱりあいつで間違いねえとわかった時、寒さだけでなく手が震えた。
氷を詰め込んだみてえに冷えてた腹の底が、カッと熱くなった気がした。
てめえこの野郎なにをこんなところで死んでいやがる。
あーまあ、今思うと逆ギレだな。完全に。
突然怒り心頭になった俺はそいつの首根っこ引っつかんで岸に引きずり上げた。
意識ねえ奴ってやったら重いよなあ、ただでさえあのヤロウ学年内じゃ重量級だってのによ。それもまたなぁんかムカついてなー、ほぼ力づくだった。
なんかの罠に嵌りでもしたのかそれとも捕まりかけたのか、ヤロウの片足には荒縄が括り付けられてて、そいつもぶっ千切って怒りのまま川にぶん投げた。
月光は冴え冴えと明るかったが、青い光に照らされたやつのツラは死人に見まがう白さだった。
本気で死んでんのかとちいとビビりながら確認したらちゃんと生きてたんで、驚かせんじゃねえこの石頭つって頭ぁ引っ叩いといた。
っても生きちゃあいたがかなり衰弱しててな。慌てて濡れた服を着替えさせて、学園への道を急いださ。学園に行きゃ風呂も布団も医者もいる、敵も獣もいるかもしれねえ山中よりゃ、多少時間がかかっても学園の方がいい。
背負った体は川で感じた重さはなんだったんだってくらい軽くてよ、でも濡れた真冬の布団みたいにじっとり冷たくて、なんか妙に焦ったなあ。
ーーところが、だ。
ようやく学園の門にたどり着いた俺に、小松田さんは言った。
「ふわぁ~おかえり食満くん~。あ、たしか伊作くんと同室だったよね?彼、文次郎くんの看病で保健室に泊まり込みだって」
は??
「何言ってんです、文次郎のヤロウはここに……」
気づいたら、背中の重みがない。
「文次郎くん昨日戻ってきたんだけど、なんだか怪我してたみたいでね~。食満くん、お見舞い行ってあげたら?」
じゃあ、俺が、ここまで背負ってきたのは?
ーーなんだったんだ。
軽くなった背は、じっとり濡れていた。
同室のコメント
伊作:
へえー、そんな事がねえ……文次郎の見舞いに来るなんて、ぼくはまた留さんまで熱出したのかって心配しちゃったよ。
文次郎も目を丸くしてたけど、いつもみたいな喧嘩腰じゃなかったねえ。喧嘩してたら留さんを保健室から放り出す事になってたからよかったけど。
文次郎?眠り薬嗅がせてオヤスミグンナイかな。
文次郎と留さんが揃ってて喧嘩しないなんてね~、仙蔵なんか明日は槍が降るのかって笑ってたよ?
あ、ねえ話は違うんだけどさ、忍たま長屋がまた雨漏りしてるんだ。
それがねえ、なんと!……僕たちのお部屋です!ははは……うん……またなんだ……。
うん、悪いけど修理お願いできないかなぁ。薬が湿気ちゃうしさ。
ちょうどコーちゃんの真上らしくて、コーちゃんがびしょぬれでさー、あの荒縄コーちゃんに持たせたの留さんでしょ?拭いといたけど、あれもビショビショになっちゃってたよ。
同輩のコメント
文次郎:
うるせえこの借りはいつか返す。
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