嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2016/07/16 [21:48:21] (Sat)
あ、喜八郎くん。これ?鋏だよ、見ての通り。
そうなんだよー、変わった色してるでしょ。
これはねえ、ちょっと不思議な経緯で手に入れた物なんだぁ。
ぼくが喜八郎くんと同じくらいの歳の頃かなぁ。
おつかいを頼まれた、その帰りのことだよ。
何の祭りだったかは忘れちゃったんだけど、その日は町でお祭りやっててね。見世物小屋もたくさん出てて、物売りの人もたくさんゴザを並べてた。すごく賑やかだったなあ。
そこで、物売りの人がたくさんいる道に通りかかったんで、ちょっと見ていこうって思ったんだ。
こんなに人出があるんだったら、ウチも出張:髪結い処で出ればよかったかな〜とか思いながら歩いててねぇ。
そしたら、ある松の木の下にね、んん〜こう言っちゃうと身も蓋もないんだけど……ずいぶん小汚い格好のおじいさんが、店を広げててね。
髪はボサボサ、目がギョロギョロしてて、でもずいぶん恰幅が良くてねぇ。あんまり汚い……ていうか臭いそうな風体だったんで、ここからちょっと歩いた先に川がありますよって教えてあげようかなって思って近づいたんだ。皆そのおじいさんの店には近づいてなかったしねー。
客商売ってねぇ、やっぱりある程度は身綺麗にしておかないとさ、まず人が寄ってきてくれないからさ。着物はすっごく汚れてたけど、よくよく見たら仕立ては良い物だったし、せめて顔を洗うとかしたらどうかな〜って思ってさ。
まあ結局、そのおじいさんは人の話聞かないタイプだったんだけどね。
「あの〜おじいさん」
「ん!?おお坊主ええもん持っとるのう。くれ!」
「はっ?」
おじいさん、滅茶苦茶ストレートだったよ。
……ぼくのねぇ、おつかいっていうのが、お客さんに出すお菓子を買ってくることだったんだ。
きちんと風呂敷に包んで持ってたのに、あのおじいさんなんで気付いたんだろうなあ。鼻が良かったのかな?
「ダメですよぉ、これは頼まれ物なんですから。おじいさんにあげたらぼくが怒られちゃいますよ」
「そんなけち臭い事言わんと、ホレ、こんなヨボヨボの年寄りを無下にするとバチが当たるぞい」
「おじいさんヨボヨボどころかピンシャンしてるじゃない」
ダメ!って言ったんだけど、中々諦めてくれなくてね〜。がっしり服の裾掴んできてさ〜、
「おお、こんなか弱い爺いをいぢめるなんて何と酷い童じゃ。一つだけでも恵んでくれぬかのう……ヨヨヨ……」
泣き真似しながらチラチラ見てくるから、ぼくも根負けしちゃったっていうか、仕方ないなぁ……て、ひとつだけあげたんだ。
美味しそうにむしゃむしゃ食べるおじいさんを見ながら、あーあ帰ったら怒られちゃうな〜ってため息ついたら、ポムと肩を叩かれてね。
「若者が何を暗い顔しておる、もそっとこう元気ハツラツとせねばモッテモテの好い男には成れぬぞ」
「おじいさん悩みとか無さそうでいいよね」
はあ〜ってもう一回ため息ついたら、そこでようやく「お?もしかして儂のせいか?」って気付いたらしくって、ニコニコしながら広げた店を指して言ったんだ。
「お礼じゃて、どれでも好きな物を一つくれてやろう」
「え、でもこれ売り物でしょ?」
「なぁに構わぬ構わぬ、久方ぶりに美味な供物を貰うたからのう」
とは言っても、店にはその……ほとんど何かわからない物しか置いてなくて、正直困っちゃったな〜。欲しい物って言っても、ガラクタ持ち帰ったら余計に怒られちゃうしさぁ。
あー……えーっと、そうだね、なんか変な模様の描かれた板とか、今にも崩れそうな古びた巻物とか、小石を繋げた物とか、水鳥の足の干物とか……あと、木彫り?の根付っぽいのとか、珊瑚の飾りのついた手鏡っぽいのとか。
どれも別にいらないかなーって思ってたんだけど、その中に、緑がかった不思議な光沢のある、飴色の鋏があってね。
ーーそう、これだよ。面白い色してるよね〜、これ何で出来てるんだろうね?
鋏はぼくもよく使う物だから、思わず目が止まったんだ。欲しいって言うつもりはなかったんだけど、おじいさん目敏くてね〜!さっとそれを取り上げて言ったんだ。
「ほおほおこれに目をつけるとはお前さんも分かっとるのう。これはな弁天池にお棲まいの御亀様の甲の欠片から作られた鋏でなァ」
亀の甲羅って、つまり鼈甲だよね?え〜そんな高価なもの貰えないし、貰ったとして使いにくいし、いらないですって断ろうとしたんだよ。
というか、おじいさんあからさまに怪しいしね。
そしたら、ぼくの帰りたいオーラが顔に出てたのかなあ。おじいさん、かかっと笑って鋏をぽんと投げてきたんだ。
「うわっあぶっ!」
忍者に何言ってんだって言われるかもしれないけど、よいこのみんなは人に向かって鋏なんか投げちゃダメだからね!
慌ててその鋏を受けとめて、そうしたらーーざあっと視界が水で埋め尽くされた。
生温い水が体を包んで、服はユラユラ揺れて、足が泥に沈むのがわかった。
それから、目の前のやたらでっっっかい……、えーと。
……あれは鯉……かなぁ……大きすぎて自信ないんだけど、たぶん鯉。
すごいよ、大の大人より大きな、真っ黒い鯉だった。
それは何度か口をパクパクさせて、悠然と泳ぎ去って行った。
大きな大きな尾びれの起こす流れに服も髪も煽られて、はっと目を開けた時には松の木の下に戻ってたよ。
おじいさんはどこにもいなくて、服も髪も濡れてない。
でも幻にしては随分と生々しい、というか夢かとも思ったけど、手の中にはこの不思議な色合いの鋏が残っていたし。
それに、お菓子もひとつ減ってたしね。……怒られはしなかったけど、ぼくがお相伴に預かる筈だったぶんは無しになってさ〜〜結構楽しみにしてたのになあ。
……んっ使い心地?
あーそれがね〜すこぶる良いんだよねぇ。由来が怪しげじゃなければ、普段使いにしたいくらいなんだよ。
うーん、手離したくはないけど、でも迂闊には使えないし。
うーん本当、困ったねえ……。
同輩のコメント
綾部:
ああ、前に、タカ丸さんが呟いてたの、聞いたことがありましてね。
なんだか遠くを見るような目をしながら、
「糸がね、……見えるんだよねー……」
その時あの妙な鋏を持ってたんで、気になって聞いてみたんです。
まあ、糸の事は話してくれませんでしたけど。
あんな逸話のある鋏なら、ねえ、何が起きてもそうそう不思議じゃないと思いますけど。
あの鋏で、その『糸』は切れるんでしょうか。
タカ丸さんには何が、見えてるんでしょうね。
あ、喜八郎くん。これ?鋏だよ、見ての通り。
そうなんだよー、変わった色してるでしょ。
これはねえ、ちょっと不思議な経緯で手に入れた物なんだぁ。
ぼくが喜八郎くんと同じくらいの歳の頃かなぁ。
おつかいを頼まれた、その帰りのことだよ。
何の祭りだったかは忘れちゃったんだけど、その日は町でお祭りやっててね。見世物小屋もたくさん出てて、物売りの人もたくさんゴザを並べてた。すごく賑やかだったなあ。
そこで、物売りの人がたくさんいる道に通りかかったんで、ちょっと見ていこうって思ったんだ。
こんなに人出があるんだったら、ウチも出張:髪結い処で出ればよかったかな〜とか思いながら歩いててねぇ。
そしたら、ある松の木の下にね、んん〜こう言っちゃうと身も蓋もないんだけど……ずいぶん小汚い格好のおじいさんが、店を広げててね。
髪はボサボサ、目がギョロギョロしてて、でもずいぶん恰幅が良くてねぇ。あんまり汚い……ていうか臭いそうな風体だったんで、ここからちょっと歩いた先に川がありますよって教えてあげようかなって思って近づいたんだ。皆そのおじいさんの店には近づいてなかったしねー。
客商売ってねぇ、やっぱりある程度は身綺麗にしておかないとさ、まず人が寄ってきてくれないからさ。着物はすっごく汚れてたけど、よくよく見たら仕立ては良い物だったし、せめて顔を洗うとかしたらどうかな〜って思ってさ。
まあ結局、そのおじいさんは人の話聞かないタイプだったんだけどね。
「あの〜おじいさん」
「ん!?おお坊主ええもん持っとるのう。くれ!」
「はっ?」
おじいさん、滅茶苦茶ストレートだったよ。
……ぼくのねぇ、おつかいっていうのが、お客さんに出すお菓子を買ってくることだったんだ。
きちんと風呂敷に包んで持ってたのに、あのおじいさんなんで気付いたんだろうなあ。鼻が良かったのかな?
「ダメですよぉ、これは頼まれ物なんですから。おじいさんにあげたらぼくが怒られちゃいますよ」
「そんなけち臭い事言わんと、ホレ、こんなヨボヨボの年寄りを無下にするとバチが当たるぞい」
「おじいさんヨボヨボどころかピンシャンしてるじゃない」
ダメ!って言ったんだけど、中々諦めてくれなくてね〜。がっしり服の裾掴んできてさ〜、
「おお、こんなか弱い爺いをいぢめるなんて何と酷い童じゃ。一つだけでも恵んでくれぬかのう……ヨヨヨ……」
泣き真似しながらチラチラ見てくるから、ぼくも根負けしちゃったっていうか、仕方ないなぁ……て、ひとつだけあげたんだ。
美味しそうにむしゃむしゃ食べるおじいさんを見ながら、あーあ帰ったら怒られちゃうな〜ってため息ついたら、ポムと肩を叩かれてね。
「若者が何を暗い顔しておる、もそっとこう元気ハツラツとせねばモッテモテの好い男には成れぬぞ」
「おじいさん悩みとか無さそうでいいよね」
はあ〜ってもう一回ため息ついたら、そこでようやく「お?もしかして儂のせいか?」って気付いたらしくって、ニコニコしながら広げた店を指して言ったんだ。
「お礼じゃて、どれでも好きな物を一つくれてやろう」
「え、でもこれ売り物でしょ?」
「なぁに構わぬ構わぬ、久方ぶりに美味な供物を貰うたからのう」
とは言っても、店にはその……ほとんど何かわからない物しか置いてなくて、正直困っちゃったな〜。欲しい物って言っても、ガラクタ持ち帰ったら余計に怒られちゃうしさぁ。
あー……えーっと、そうだね、なんか変な模様の描かれた板とか、今にも崩れそうな古びた巻物とか、小石を繋げた物とか、水鳥の足の干物とか……あと、木彫り?の根付っぽいのとか、珊瑚の飾りのついた手鏡っぽいのとか。
どれも別にいらないかなーって思ってたんだけど、その中に、緑がかった不思議な光沢のある、飴色の鋏があってね。
ーーそう、これだよ。面白い色してるよね〜、これ何で出来てるんだろうね?
鋏はぼくもよく使う物だから、思わず目が止まったんだ。欲しいって言うつもりはなかったんだけど、おじいさん目敏くてね〜!さっとそれを取り上げて言ったんだ。
「ほおほおこれに目をつけるとはお前さんも分かっとるのう。これはな弁天池にお棲まいの御亀様の甲の欠片から作られた鋏でなァ」
亀の甲羅って、つまり鼈甲だよね?え〜そんな高価なもの貰えないし、貰ったとして使いにくいし、いらないですって断ろうとしたんだよ。
というか、おじいさんあからさまに怪しいしね。
そしたら、ぼくの帰りたいオーラが顔に出てたのかなあ。おじいさん、かかっと笑って鋏をぽんと投げてきたんだ。
「うわっあぶっ!」
忍者に何言ってんだって言われるかもしれないけど、よいこのみんなは人に向かって鋏なんか投げちゃダメだからね!
慌ててその鋏を受けとめて、そうしたらーーざあっと視界が水で埋め尽くされた。
生温い水が体を包んで、服はユラユラ揺れて、足が泥に沈むのがわかった。
それから、目の前のやたらでっっっかい……、えーと。
……あれは鯉……かなぁ……大きすぎて自信ないんだけど、たぶん鯉。
すごいよ、大の大人より大きな、真っ黒い鯉だった。
それは何度か口をパクパクさせて、悠然と泳ぎ去って行った。
大きな大きな尾びれの起こす流れに服も髪も煽られて、はっと目を開けた時には松の木の下に戻ってたよ。
おじいさんはどこにもいなくて、服も髪も濡れてない。
でも幻にしては随分と生々しい、というか夢かとも思ったけど、手の中にはこの不思議な色合いの鋏が残っていたし。
それに、お菓子もひとつ減ってたしね。……怒られはしなかったけど、ぼくがお相伴に預かる筈だったぶんは無しになってさ〜〜結構楽しみにしてたのになあ。
……んっ使い心地?
あーそれがね〜すこぶる良いんだよねぇ。由来が怪しげじゃなければ、普段使いにしたいくらいなんだよ。
うーん、手離したくはないけど、でも迂闊には使えないし。
うーん本当、困ったねえ……。
同輩のコメント
綾部:
ああ、前に、タカ丸さんが呟いてたの、聞いたことがありましてね。
なんだか遠くを見るような目をしながら、
「糸がね、……見えるんだよねー……」
その時あの妙な鋏を持ってたんで、気になって聞いてみたんです。
まあ、糸の事は話してくれませんでしたけど。
あんな逸話のある鋏なら、ねえ、何が起きてもそうそう不思議じゃないと思いますけど。
あの鋏で、その『糸』は切れるんでしょうか。
タカ丸さんには何が、見えてるんでしょうね。
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