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嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2025/07/05 [23:35:45] (Sat)
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2012/08/20 [12:21:03] (Mon)
立花仙蔵

拍手[8回]

 ある夜のことだ。

 予算会議の打ち上げでな、酒盛りをしていた。
 んん?ああそうだな、打ち上げという名の文次郎吊るし上げ大会だが、奴はちゃんと会計委員として理に適った分配をする。吊るし上げと言っても、口先だけの可愛いものさ。

 

 酔いが回って、留三郎と小平太が舟を漕ぎ始めた頃だったかな。戸の前に、気配があった。
 ほとほとと戸を叩く音がする。

「もうし……旅の者ですが、夜の山道に難儀しております。今宵一晩、泊めてはいただけないでしょうか」


 私たちは全員爆笑した。

 ――そうだ、私も、文次郎も、あの長次もだ。全員しこたま酔っていたからな……。三禁とは恐ろしいな兵太夫、酒には呑まれるなよ。
 何故笑ったかって?
 忍術学園の、しかも六年長屋に、「旅の者です」と哀車の術を使ってくる、とんでもない希代の莫迦者だぞ。これを笑わずしてどうする。
 笑いながら即座に矢羽根で相談し、どんな阿呆か面を拝んでやろうじゃないかという話になってな、どうぞどうぞと招き入れた。

 入ってきたのは、少し吊り目気味の美しいおなごであった。

 ――ただし、耳と手、尻尾が狐のままであったがな!

 その時点で私たちの笑いは頂点に達した。不自然でないようにと折角堪えていたというのに、全員が涙を流すほど笑い転げた。特にひどいのがは組の二人だったな。
 留三郎は笑いすぎて息もできなくなったらしくてな、珍妙な体勢で床に倒れ伏したままぴくぴく痙攣していた。
 伊作は笑いすぎて酒にむせてしまい、それでも笑いが収まらないので顔が紫色になっていた。

 沈没したは組は捨ておいて、我々は化かすのが下手すぎる狐をおちょくりまくってやろうと一致団結した。

 なんだ喜八郎――……ふ、よいよ藤内。喜八郎、「タチの悪い酔っぱらいみたい」ではなく、「そのもの」だ。
 あの時の我々はそれはそれはタチが悪かっただろうからな……。


 そこからは根掘り葉掘り、狐が慌てるのを愉しみながら質問の嵐だ。無論狐からも問いは投げられたが、出まかせで誤魔化した。
 だがそこは酔っ払いだ、出まかせもとんでもないものでな。

 何故か、私が評判の美姫で、恐ろしい鬼にかどわかされたところを山賊の小平太に助けられ、そのまま手ごめにされるところを通りがかった武芸者留三郎が助け、たまたま近くに居た天才医師の卵伊作が怪我の手当てをしていたら私の美貌に一目惚れ(笑)し、山賊の首領である長次を連れて小平太がそこに乗り込み、あわや修羅場というところで鬼に攫われた私を取り戻すべく大殿から下命された家臣の文次郎がそこに到着、ひと悶着の挙句全員が私に求婚するというやたら濃い一大ドラマが出来上がった。

 酔いとは恐ろしいな。

 あろうことか、その時私は女装していなかった、明らかに男だというのに、狐はそれを信じ込んだ。
 しかも笑える事に、美姫(笑)に対抗心を燃やしたらしく、他の面々をあからさまに誘惑しだしたのだ。
 折角笑い死にを免れたは組の二人が、再び撃沈した。

 何とも趣味の悪い事に、狐が最初に粉をかけたのは文次郎だった。
 奴が似非くさい爽やかな笑顔を浮かべて女を口説き落とすのが、あまりに似合わなくてな。は組の二人のみならず私や小平太まで息ができなくなる程笑い転げたので、とても口説く雰囲気じゃない。狐は早々に長次に乗り換えた。
 乗り換えられた文次郎は食満に爆笑されて、取っ組み合いになりそうだったので伊作が叩き落した。ん?無論私も笑ったぞ。文次郎を正面から馬鹿にできる機会はそうない。

 ここで、文次郎にバトンタッチされた長次が、悪乗りした。
 お前たち、酒を使った簡単な結界は知っているか?
 長次から矢羽根で結界の作成と言われ、我々は喜々としてこっそりと結界をはった。
 声が小さすぎて全ては聞こえなかったが、長次は身が痒くなるような甘い言葉を延々と囁きながら、狐の耳や尾を撫でていた。長次はな、あれでなかなか動物が好きなのだ。
 そこで、笑い死にを免れ復活した伊作と留三郎が左右から狐の美しさを褒め称え始め、全員を虜にしたところで私に勝ち誇ってきたのでな、実は男だとカミングアウトだ。
 そしてカミングアウトがツボに入ったらしい酔っぱらい共も口々に「実は……もしやと思ったんだが……」と言いだした。

 最終的に、長次と文次郎がかつて恋のライバルであり、他の面々は全員異父兄弟で、長次と文次郎のどちらかが父なのだそうだ、ということになった。

 そうだったのか、兄弟よ、我が子よと伊作を除く全員が狐から離れて肉親の絆(笑)を確かめ合っている状態で、伊作が扇を取り出した。
 狐と歓談しながら、上手いこと扇の匂いを嗅ぐよう誘導して、意識が朦朧となったあたりで特製の睡眠薬入りの酒を飲ませた。

 造作もなく狐を眠らせた伊作が「ちょろい」とこぼしていた。
 まあ、あれではまだ五年の狐の方が手応えがあるであろうよ。

 小平太が大はしゃぎでな、狐の毛皮でも作るかとえらく乗り気だったんだが、下手すぎるとはいえ化け狐だ。祟られてもかなわんと、簀巻きにして放置した。


 全く、愉快な酒の肴であったよ。

 

 



後輩のコメント

竹谷:
あれは先輩方の仕業だったんですか!
簀巻きにされた狐が俺の部屋の前に転がってた時は何だコレ!?と思いましたよ!
生物委員で飼うわけにもいかないんで、逃がしてやりましたけど。
夜に礼を言いに来ました。化けるとか、マジびびった……道理で、簀巻きにされてた時、狐除けの呪符が貼ってあったはずだなあって遠い目になりましたよ。
「化かすつもりが化かされるとは、人間は恐ろしい。もう人里には近付かない」って言ってました。

先輩方、一体何したんすか?
 

鉢屋:
先輩まさか五年の狐って私の事ですか。
まさかソレ、狐の前で言ったんじゃないでしょうね?
……最近、やたら知らない人にスカウトされるんですよ。「ウチでちょっと悪戯講習会してくれないか」って。
しかも、貴族やら、どこぞの姫さんやら、身分に差がありすぎて断るのが難しいような人たちばっかりなんですよね。
断りましたけど。断ったというか、ほぼ逃げてきたに等しいんですがね。

しかし、先輩の話聞いて改めて思ったんですが。
……あのお貴族やら姫さん方は、全員一様に狐目だったなぁと……思うわけですよ。
で。
お聞きしますけど。


先輩方、狐の前で一体何を口走ったんです?

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