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嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2025/07/05 [13:09:28] (Sat)
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2012/11/05 [00:03:38] (Mon)
善法寺伊作

拍手[11回]


 やー、結局アレはなんだったんだろうねぇ?

 ま、保健委員長として言わせてもらうなら、ヒトじゃなかったということだけは確実かな?

 はぁ~、それにしても下級生がひきつけ起こしちゃってさあ、結局ぼくは大忙しだったよ。

 

 ん?ああ、そういえば文次郎はいなかったんだっけねぇ。

 話するのはいいけど、仙蔵に説明できない事について説明しろって言われても、無理なものは無理だからね?


 

 

 んー、たぶん最初の被害者はもっと前からいたんだと思うんだけどね。

 ぼくが気付いたのは、一年生の叫び声が聞こえたからなんだ。

 

「きゃあああああああああ!?」

 

 いや~、一年生って悲鳴もかっわいいよね~!

 どこぞのイケドンとかギンギンとかケマトメとは大違いだよ!

 

 まあそれでさ、何事かと思って駆けつけようとしたんだけど。

 でもね、考えてみてよ。

 不本意ながら不運委員長とか言われてる、このぼくですよ?

 学園で何かあった時、保健委員が迅速に現場に駆けつけるなんて奇跡、今まであったかい?

 

 うん、当然のごとくというかね、綾部の穴に落ちたよ。

 しかもそれが最近の傑作だとかいう物凄く巧妙な落とし穴でさ~、一度落ちると六年生でもなかなか上がれないんだ。もうホント参ったよ。



 

 溜め息ついて助けを待とうと思ったら――ちょっと文次郎、話の途中で茶々いれないでよ。
 根性や鍛錬で不運が克服できたらね、それは不運とは言わないんだよ。ドジッ子っていうんだよそれは。そんな可愛らしいものだったらぼくたち保健委員は苦労してないよ。
 もう、大人しく聞いててよ、そっちから聞いてきたんだろ。


 


 穴の外から手が伸びててね、どこのどちら様か知らないけど、こりゃありがたいと思ってその手を掴んだんだ。

 思えば、その時点でちょっと疑うべきだった。

 

 だってね、落とし穴に落ちた直後に助けが現れるなんて、滅多にない幸運なんだよ?


 

 

 顔を上げたら、――なんて言えばいいんだろ?

 一応顔って言っていいのかな、あれ。


 

 魚と猿と猫がごっちゃごちゃに混ざったみたいな、意味の分からない顔がそこにあった。


 

 ほんと意味がわからないよ。どうして瞼の中に猿の鼻があるんだろ。

 どうして魚の口に右半分だけの牙と舌が二枚あるんだろ?

 

 流石にぼくも硬直したね。

 そしたら、その解剖学的にもぐちゃぐちゃの顔の、たぶん口っぽいところがグワッと開いてさ。
 喰われる!と思ったんだけど、キャキャキャーだかケケケーだか、ぼくを指差して大笑い。
 あれは絶対に馬鹿にした嗤いだったね。今思い出してもちょっとイラッとする。

 

 でもね、そこからが不気味だったんだよ。

 

 ぼくに嗤い声を浴びせながら、そいつの顔がグニャグニャ蠢きはじめてさ。

 なんとぼくの顔になったんだ!

 

「ええっ!?」

 

 しかも、いつの間にやら髪や服までぼくとそっくり同じになってて。

 その日は作法の罠強化週間だったんだよね~、引っ掛かりまくったぼくは袖が盛大に破れた忍装束を着てたんだ。
 信じられる?その破れたところまで、そっくり同じだったんだ。

 ぼくと全く同じ声で笑い声を上げるそいつを見て、最初に思う事――この学園の生徒なら、分かるだろう?

 

 


 

 

 

「こぉぉぉらぁぁっ鉢屋ぁぁぁ!!」

 



 

 

 

 留さんの怒鳴り声が学園に響いた。

 鉢屋はまるで狐みたいにぴょんっと飛び上がると、ぼくの声で馬鹿笑いしながら走り去って行った。

 


 

「待てゴラァァァ!一年泣かせてんじゃねぇえ!」

 留さんの声が近づいてきたんで、ぼくは穴から手を振った。いやあ、変なモノに遭遇しちゃったけど、留さんに会えたのは幸運だったよ。五年か六年じゃないと、引っ張り上げてもらうのが難しいところだったし。

「伊作!?お前またなんてトコに落ちてんだ」

 えげつない落とし穴を見て、留さんは眉を顰めながらぼくを引っ張り上げてくれた。

 その横を、殺気立った上級生たちが土埃をあげながら走り過ぎて行ってさ、思わず「鉢屋何したの」って呟いちゃったよ。


 だってさ、小平太も長次もマジギレしてるし、五年の不破だっけ?あの子、流石長次の後輩って言うのかな、顔はすごく穏やかに微笑んでるんだけど、黒いオーラ半端ない。目が笑ってない、笑ってないよ。どうしたの彼はそんな怖い子じゃなかった筈だ。

 その後ろから、四年の平、田村と、二年の能勢に池田、あと目を吊り上げた一年は組。
 最後に思案気な仙蔵と五年の尾浜、久々知、あと一年は組の庄左エ門が首を傾げながら追ってった。

 


 

 

……ああ、ずいぶん色々やらかしたんだな……。


 

 

 

 ぼくは鉢屋に合掌してその集団を見送ったよ。
 

 あの先頭集団の剣幕からして、鉢屋が生きて明日の朝日を拝めるかどうか怪しいところだなと思ったんで、ぼくは保健委員として薬草を集めに行こうと思った。
 

 イベントの最後に連中が来る場所は、医務室だ。
 伊達に六年間保健委員を勤め上げて、君たちの同級をしてるわけじゃないんだよ、文次郎。いっつもいっつも怪我して医務室で大騒ぎするんだよ君たちは。
 いい加減学んだらどうかなと思うんだけど?




 

 そう、それでね。外出届を小松田さんに提出してる時に、丁度君たちが帰ってきたんだ。

 後で聞いたけど、五日かかるおつかいだったんだって?どうりで傷だらけ泥だらけ、疲労困憊でボロボロだったと思ったよ。

 ぼくはてっきりあのえぐい顔したアレが鉢屋だと思ってたから、え?って思った。

 

「お疲れ文次郎、鉢屋。……ねえ、鉢屋ってずっと外に居た?」

「?ええ、五日ほどは」

「今回のおつかいは鉢屋と組んでたからな。何かあったのか?」

 

 文次郎も鉢屋も、おつかい帰り……ていうか、忍務帰りで過敏になってて、実は門に入る前から学園の騒がしさに気付いてたでしょ?
 疲労困憊だったのに、ちょっと緊張していたよね。

 

 そこに、不破……いや、不動明王が降臨した。

 

 

 

「ようやく見つけたよ、三郎」

 

 

 

 っふ、鉢屋のあんな顔初めて見たよ!鳩がカノン砲くらったみたいな顔!
 やばい何かやったっけ、心当たりが多すぎてやばいって顔に書いてあったよ!

 いや、ぼくの目から見てもあの不破は怖かったね。小松田さんは既に半泣きだった。

 


 続々と集まる殺気だった忍たまたちに、鉢屋の顔が面白いくらい引き攣っていってさ。

 


 ぼくの隣で観戦を決め込んだ仙蔵なんかは吹き出しそうになってたね。あと、見る限りでは尾浜と久々知、庄左エ門が様子見してた。

 たぶん、この面々はアレが鉢屋じゃないって分かってたんだろうね。止めなかったのは、まあ、察してよ。

 これが下級生や四年だったら止めたけど、ねえ。だって、鉢屋だよ?

 

 後輩の実力把握も先輩の仕事のうちだろう?



 

 え、どうしたの二人とも黙っちゃって。
 黒い?嫌だなぁ、これでもぼくは六年生なんだよ?
 数多の不運を乗り越えて忍術学園の六年生まで生き残った人間が、少しも黒くないなんて思ったら大間違いだよ。そんな幻想は厠にでも捨ててきなよ。


 

 

 あっはっは~いやあ、でも凄かったねえ鉢屋。

 あんなボロボロだったのに、よくあそこまで動けたよ。攻撃食らっても上手く衝撃を逃がして決定打にさせなかったものね。まあ、最終的に一年は組のナメクジと鼻水で捕獲されたけどさ。
 あのコンボは凄かったなぁ、鼻水ってあんなに素早く飛ぶんだねぇ。


 まぁ、そこからは知っての通りだよ。


 絶体絶命の窮地に陥った鉢屋に、なんとなく状況を把握した文次郎が助け舟を出した。出したというか、正確な状況を尋ねたんだっけ?
 そこから次々に語られる身に覚えのない罪状に、鉢屋は堪らず叫んでた。うん、まあぼくでも叫ぶよ。だから、仙蔵がぼくの背中に隠れて爆笑してても、落ち込まなくていいと思うよ。

 

「ちょおおおい待って!待って雷蔵!私今帰ったトコなんですけど!」
 

 ねえ潮江先輩!って鉢屋が全力で振り向いて、文次郎はむっつり頷いた。

 

「お前らの言ってるたわけ者は鉢屋じゃない。俺と鉢屋は数日前からおつかいで外に出てる」


 

 

「「「「「「「「えっ」」」」」」」」」


 

 

 皆が呆然として、じゃあアレは、という声が誰かの口から溢れた。

 



 

 

 そうだ、あれは誰だ?

 



 

 

 どこか遠くで、あの奇妙な嗤い声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

同輩のコメント

 

立花:

あぁ、何か山にはああいうモノが出るらしいな。深く考えても分からんものは分からん、忘れる事だ。

 

それにしても鉢屋は可哀想になぁ、くくく……っ。

下級生の大多数に勘違いされて、しばらく嫌われまくったというではないか?まぁ、普段の己の行いが招いた事だ。同情には値せんが。

しかし落ち込んで雲隠れした鉢屋と、慌てて宥める不破と五年の鬼ごっこ、あれは傑作だったな。

面白いものを見せてもらった。

 

 

後輩のコメント

 

黒木:

はい?ああー……あの時止めなかった理由ですか。

まずですね、鉢屋先輩はちょっと反省した方が良いと思うんです。先輩は普段から色々やらかしすぎなんです。才能の無駄遣いというか、なまじ優秀な方なので、普通は出来ない事もできてしまいます。しかも愉快犯なんです。

ええ、あんな勘違いされたのも因果応報と言えましょう。

 

なので、この機会に少し反省してもらおうと思いまして。

 

尾浜先輩とも相談して、温かく見守る事にしたんです。まさかあの気持ち悪いのが本当にオバケだとは思いませんでしたけど……。てっきり、曲者かと思ってました。

まあでも、思ったより落ち込まれてしまったので、ちょっと可哀想に思って、は組で手分けして誤解は解きました。

 

え、なんで鉢屋先輩じゃないってわかったのかって?

 

鉢屋先輩は、後輩を泣かせて嗤うような人じゃありませんから。

そんな性格最悪な人、この学園には居ません!

 

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