嘘と創作を混ぜて語る日記的なもの
2015/11/07 [18:15:27] (Sat)
雨が降ってたな。
追っ手を誤魔化すにゃいい日和だ。
ただ、間抜けにも腹をばっさりやられてなかったらの話だが。
相手方にそりゃ凄まじい剣の使い手がいてな、正面切って戦うのは忍びの仕事じゃねえし、何とか避けようとしてたんだがなあ。
対峙したのはほんの一瞬だ、胴に鉄棍を仕込んでなけりゃ真っ二ツだったかも知んねえな。運が良かったんだろ。
……その後すぐに伊作が来てなかったら捕まってただろうぜ。あのバカ、俺がいくら捨ててけって言っても全く聞きゃあしねえ。逆に説教されちまって、出血で朦朧とするわ頭ぁガンガンするわフラフラでよ、なっさけねえったらねえよ。
伊作は落ちこぼれでもなんでもない。
一対一での組手なら負ける事のが少ねえ。流石に6年も保健委員やってるだけあって関節の仕組みやら人体のツボやらにおっそろしく詳しい。
一対多の戦いだって、薬を使った撹乱戦ならあいつの十八番だ。
……だけどなあ、叩きつけるようなあんな土砂降りの中じゃあ、薬なんて流れちまう。
んで、追っ手は、たぶん……4人くらいはいただろ。ちっと無謀ってもんだ。
伊作が弱いたあ言わねえさ、俺なんて足手纏い連れてなきゃ余裕でなんとかできただろうよ。
おまけに俺は怪我のせいでどんどん弱ってく。
ま、端的に言ってやばかったな。
出血のせいで動けなくなってきてるところに、蓑やら笠なんて意味がねえくらいの雨だぜ?
体温はどんどん下がるわ、追っ手のせいでロクに治療できねえわ……、当然俺は動けなくなった。後から伊作に聞いたら、高熱も出てたらしい。
「いさく……置いてけ」
「戯言は聞かないよ」
その辺朦朧としてたからよく覚えてなくてよ。
伊作からの又聞きなんだが、山中に隠れるようにしてぽっかり開いた洞穴を見つけたんだと。
これ幸いと俺をそこに担ぎ込んで、とりあえずの応急手当をしたそうだ。
「すぐ戻るから。待っててね、留さん」
伊作がそう言って、雨の中出てったのは覚えてる。
「馬……鹿やろ……置いてけよ…………」
くそっ、と思ってみても体は動かねえ。心なしか視界もだんだん暗くなってきて、ああクソ、ぜってえ死なねえぞ。伊作は戻ってくる。その時に俺がくたばってちゃ不甲斐ねえだろ、死んでられっかよ、ってぇ気合いを入れて頑張ってたさ。
ーー!ーー!しっかりしろ!
大丈夫だ、ーー。もうすぐ助けが来る。
ふと、急に周りが騒がしくなった気がした。
熱のせいだろうが、頭痛がひどくてなー。腹斬られたとこも痛えんだが、おりゃ頭の方が嫌だったな。
で、頭痛をこらえて目ぇ開けたら、魂消たぜ。
伊作がよく忍務中にやってる、野戦病院っつの、そんな感じになってたんだ。
そこらに怪我した足軽兵やらが蹲ったり寝そべったり、……手遅れだなって奴も多かったけどな。心得のある奴っぽいのが動ける奴に指示飛ばして、治療したり水を配ってた。
だけどな、どうもそいつらは……なんつーか……現実感がなくてな。俺が朦朧としてたせいもあるかもしれねえけどよ……。夢か、幻でも見てんのかって思ってた。
ぼんやり見てたら、すぐ隣から静かな声がした。
お前さんも不運だなあ、こんなに若いのになあ
ここは墓場だ。おれの。おれたちの
でかい手のひらが、優しく頭を撫でてきた。
大人の、大きな手だったな。ごつくて分厚くてよ。
ーー親父を思い出した。
お前さんもおれたちと来るか。
置いていかれたんだろう?
ちげーよ、そう言って笑ったつもりだったが、たぶん声にゃ出て……出せてなかったろうな。
ーーああ、いや。
ーー連れがいるんだな。
「ーー、ーーん!ーーめさん!留三郎!?しっかりしろ、寝るな、起きろ!起きろっつってんだよ!!ばかやろう!!」
突然耳元で怒鳴られて、バッと目が覚めた。
同時に反射で思いっきり息吸い込んで、腹の傷に障って悶絶したわ……。
あ、俺いま息してなかったかもしんねえ、って思ったな。
我ながらありゃヤバかった。
伊作は泥と返り血でべっちょべちょのどっろどろ、泣きそうなツラしてやがって、思わず笑っちまったら「このばか!ばか留!!」ってもっかい怒られた。
その後はまあ、気付いたら保健室だ。
委員会の後輩がみぃ~んな見舞いに来てくれてな~あいつらまじかわいいわ。俺がいねえぶん作が頑張るって言ってくれたが、作ぁ頑張りすぎるトコあっからなあ。
文次郎のアホに鼻で笑われたのもあるし全力で養生したぜ……あの一月はすげえ色々我慢したな……もう二度とやんねえよあんなん。
あ?治りかけで飛び出す?ンなことできるワケねーだろ、おりゃ恐怖の保健委員長、伊作と同室なんだぞ。
あいつは患者を大人しくさせる為なら躊躇いなく薬盛ってくるし、物理的にもガチで沈められるからな。小平太だって療養中は伊作の目を窺ってるくらいだ。
悪いこた言わねえから保健委員にゃ逆らわんとけ。な。
にしても、あの洞穴あれから見つからねえんだよなー。うーん、供養してやりたかったんだが……あ?うーるせ。
同室のコメント
伊作:
ああ。あの時の留さん?あはは、ふざけてるよね、こっちが必死に傷口縛って肩貸して背負って追っ手気にしてるっていうのに、「足手纏いだ、置いてけ」しか言わないんだよ!?ふざけてるでしょ!?黙ってろ馬鹿野郎って叫ぶでしょ!?
半分ぶちキレてた時にあの洞窟見つけたから助かった!って思ったけど、……帰ってきたらさあ……ハア。あの時、ぼく、絶対に寿命が縮んだよ。
覚悟はしてたよ、けど、覚悟はしてても、……。
……あーなんでもない!はい!この話は終わり!
そういえばあの洞窟ねえ、骨がたくさんあったんだ。
それどころじゃなかったし、あんまり気にしなかったんだけど。お墓だったのかもね~。お邪魔しますの一言も言えばよかったかな?
うん?別に?
だってぼくも留さんもコーちゃんと同室で寝てるんだよ?
同輩のコメント
文次郎:
こんのバカタレが!!思いっきり連れて逝かれそうになってるだろうがこのスカポンタン!
伊作もてめえもコーちゃんのせいだかなんだか知らんが、人骨のある空間に慣れすぎだ!
少しは疑問に思わんかこの脳足りん共!
ああ?なんだとぉ!?受けて立ってやろうじゃねえか!ああん!?
(以下乱闘騒ぎ)
雨が降ってたな。
追っ手を誤魔化すにゃいい日和だ。
ただ、間抜けにも腹をばっさりやられてなかったらの話だが。
相手方にそりゃ凄まじい剣の使い手がいてな、正面切って戦うのは忍びの仕事じゃねえし、何とか避けようとしてたんだがなあ。
対峙したのはほんの一瞬だ、胴に鉄棍を仕込んでなけりゃ真っ二ツだったかも知んねえな。運が良かったんだろ。
……その後すぐに伊作が来てなかったら捕まってただろうぜ。あのバカ、俺がいくら捨ててけって言っても全く聞きゃあしねえ。逆に説教されちまって、出血で朦朧とするわ頭ぁガンガンするわフラフラでよ、なっさけねえったらねえよ。
伊作は落ちこぼれでもなんでもない。
一対一での組手なら負ける事のが少ねえ。流石に6年も保健委員やってるだけあって関節の仕組みやら人体のツボやらにおっそろしく詳しい。
一対多の戦いだって、薬を使った撹乱戦ならあいつの十八番だ。
……だけどなあ、叩きつけるようなあんな土砂降りの中じゃあ、薬なんて流れちまう。
んで、追っ手は、たぶん……4人くらいはいただろ。ちっと無謀ってもんだ。
伊作が弱いたあ言わねえさ、俺なんて足手纏い連れてなきゃ余裕でなんとかできただろうよ。
おまけに俺は怪我のせいでどんどん弱ってく。
ま、端的に言ってやばかったな。
出血のせいで動けなくなってきてるところに、蓑やら笠なんて意味がねえくらいの雨だぜ?
体温はどんどん下がるわ、追っ手のせいでロクに治療できねえわ……、当然俺は動けなくなった。後から伊作に聞いたら、高熱も出てたらしい。
「いさく……置いてけ」
「戯言は聞かないよ」
その辺朦朧としてたからよく覚えてなくてよ。
伊作からの又聞きなんだが、山中に隠れるようにしてぽっかり開いた洞穴を見つけたんだと。
これ幸いと俺をそこに担ぎ込んで、とりあえずの応急手当をしたそうだ。
「すぐ戻るから。待っててね、留さん」
伊作がそう言って、雨の中出てったのは覚えてる。
「馬……鹿やろ……置いてけよ…………」
くそっ、と思ってみても体は動かねえ。心なしか視界もだんだん暗くなってきて、ああクソ、ぜってえ死なねえぞ。伊作は戻ってくる。その時に俺がくたばってちゃ不甲斐ねえだろ、死んでられっかよ、ってぇ気合いを入れて頑張ってたさ。
ーー!ーー!しっかりしろ!
大丈夫だ、ーー。もうすぐ助けが来る。
ふと、急に周りが騒がしくなった気がした。
熱のせいだろうが、頭痛がひどくてなー。腹斬られたとこも痛えんだが、おりゃ頭の方が嫌だったな。
で、頭痛をこらえて目ぇ開けたら、魂消たぜ。
伊作がよく忍務中にやってる、野戦病院っつの、そんな感じになってたんだ。
そこらに怪我した足軽兵やらが蹲ったり寝そべったり、……手遅れだなって奴も多かったけどな。心得のある奴っぽいのが動ける奴に指示飛ばして、治療したり水を配ってた。
だけどな、どうもそいつらは……なんつーか……現実感がなくてな。俺が朦朧としてたせいもあるかもしれねえけどよ……。夢か、幻でも見てんのかって思ってた。
ぼんやり見てたら、すぐ隣から静かな声がした。
お前さんも不運だなあ、こんなに若いのになあ
ここは墓場だ。おれの。おれたちの
でかい手のひらが、優しく頭を撫でてきた。
大人の、大きな手だったな。ごつくて分厚くてよ。
ーー親父を思い出した。
お前さんもおれたちと来るか。
置いていかれたんだろう?
ちげーよ、そう言って笑ったつもりだったが、たぶん声にゃ出て……出せてなかったろうな。
ーーああ、いや。
ーー連れがいるんだな。
「ーー、ーーん!ーーめさん!留三郎!?しっかりしろ、寝るな、起きろ!起きろっつってんだよ!!ばかやろう!!」
突然耳元で怒鳴られて、バッと目が覚めた。
同時に反射で思いっきり息吸い込んで、腹の傷に障って悶絶したわ……。
あ、俺いま息してなかったかもしんねえ、って思ったな。
我ながらありゃヤバかった。
伊作は泥と返り血でべっちょべちょのどっろどろ、泣きそうなツラしてやがって、思わず笑っちまったら「このばか!ばか留!!」ってもっかい怒られた。
その後はまあ、気付いたら保健室だ。
委員会の後輩がみぃ~んな見舞いに来てくれてな~あいつらまじかわいいわ。俺がいねえぶん作が頑張るって言ってくれたが、作ぁ頑張りすぎるトコあっからなあ。
文次郎のアホに鼻で笑われたのもあるし全力で養生したぜ……あの一月はすげえ色々我慢したな……もう二度とやんねえよあんなん。
あ?治りかけで飛び出す?ンなことできるワケねーだろ、おりゃ恐怖の保健委員長、伊作と同室なんだぞ。
あいつは患者を大人しくさせる為なら躊躇いなく薬盛ってくるし、物理的にもガチで沈められるからな。小平太だって療養中は伊作の目を窺ってるくらいだ。
悪いこた言わねえから保健委員にゃ逆らわんとけ。な。
にしても、あの洞穴あれから見つからねえんだよなー。うーん、供養してやりたかったんだが……あ?うーるせ。
同室のコメント
伊作:
ああ。あの時の留さん?あはは、ふざけてるよね、こっちが必死に傷口縛って肩貸して背負って追っ手気にしてるっていうのに、「足手纏いだ、置いてけ」しか言わないんだよ!?ふざけてるでしょ!?黙ってろ馬鹿野郎って叫ぶでしょ!?
半分ぶちキレてた時にあの洞窟見つけたから助かった!って思ったけど、……帰ってきたらさあ……ハア。あの時、ぼく、絶対に寿命が縮んだよ。
覚悟はしてたよ、けど、覚悟はしてても、……。
……あーなんでもない!はい!この話は終わり!
そういえばあの洞窟ねえ、骨がたくさんあったんだ。
それどころじゃなかったし、あんまり気にしなかったんだけど。お墓だったのかもね~。お邪魔しますの一言も言えばよかったかな?
うん?別に?
だってぼくも留さんもコーちゃんと同室で寝てるんだよ?
同輩のコメント
文次郎:
こんのバカタレが!!思いっきり連れて逝かれそうになってるだろうがこのスカポンタン!
伊作もてめえもコーちゃんのせいだかなんだか知らんが、人骨のある空間に慣れすぎだ!
少しは疑問に思わんかこの脳足りん共!
ああ?なんだとぉ!?受けて立ってやろうじゃねえか!ああん!?
(以下乱闘騒ぎ)
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